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【おはなし】
『ホロッポとコロッポ』
- すずのとし
- 第9回 1998年07月01日
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(1)
野山から雪が消えると、畑の黒い土が盛り上がってきました。落葉松林に囲ま れた広い畑の真ん中に、二つだけ小さい雪玉が残っていました。よーく見るとそれは雪玉ではなく白いふわふわの、卵のようなものでした。
春の日ざしが強くなり、地面から水蒸気がたって景色がゆらゆらと揺れます。そんなほかほかの陽気に、白いふわふわがパッチリ目を開けました。ホロッポとコロッポでした。二人は足も手もない体でウーンと伸びをしました。
ホロッポは男の子で、コロッポは女の子です。目をつむっていると卵か石ころかわかりません。ただのお団子です。喋るときだけ小さな口が開きます。暖かくなるとホロッポとコロッポは軽くなります。反対に寒くなると重くなります。ですから、冬には雪の中で見つけることができますが、春になるとふわふわ空へ上ってしまいます。ところが今年は春になってもホロッポとコロッポは畑に残っていました。
「お前たち、どうして空へ行かないのだ」
お日様が聞きました。
「帰りたくないんだ」
「いろんな物、見たいの」
ホロッポとコロッポは顔を見合わせてにっこりしました。
ドカドカ。子連れの猪が林の中から畑へ飛び出してきました。ビリから二番目に駆けてきたちっこいのが、ホロッポとコロッポを見つけました。
「何だい、これ」
一番後のお父さん猪が注意しました。
「食べるんじゃないよ。毒かもしれないから」子どもの猪がホロッポを蹴飛ばしました。
「生き物じゃないな」
と、お父さん猪が、バカにしたように言いました。「どうして」
「手も足もないだろ」
先へ行ったお母さん猪とお兄さん猪たちが呼んでいます。ちっこい猪はコロッポも蹴飛ばして走って行きました。ホロッポは心配そうに呟きました。「僕たち、生き物じゃないのかな」
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