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おはなし

『お面』『対決』『お月さん』

狸のぽん太は街へ行きたくて仕方ありません。
お面


 狸のぽん太は街へ行きたくて仕方ありません。

「僕もう、大人だもん」

 いつもそういってお母さんを心配させていました。

 祭りの太鼓が聞こえて、鎮守の森のあちこちに裸電球がともる夜店が出ました。お母さんが目を離したすきにポン太は飛び出して行きました。

 夜店のお面屋のおじさんが隣の小母さんに話しかけているときポン太は飛び上ってお面を盗みました。

 若い娘のお面をつけて人ごみの中を行くと、誰にも怪しまれませんでした。が、誰かが、ぎゅっと手を握りました。でも、毛深く、ざらざらしているので、びっくりしたように放しました。

 ポン太も向こうからくる若者の足に触ってみました。つるつるでした。

「こいつは、河童かもしれないな」

 と、思いました。

 翌日は昼間、ふきの葉のかげにかくして置いたお面の中から、メガネをかけた先生になって、道端にあった自転車に乗り、街にいってみました。会う人、会う人皆がおじぎをしてくれるので嬉しくなり、そっくり返った途端に溝に落ちました。

 次の日は乞食のお面をつけました。向こうからくる人がポン太を見ると、顔をしかめ、遠回りしていってしまいました。交差点にいると巡査がきて、あっちへ行けと追い立てられ、橋の側にくるとおばあちゃんが一つ、固くなった古いおにぎりをくれました。

 しゃくにさわったので次の日は、鬼のお面をつけました。けれども街へ行くと、子供たちまで笑い転げてついてきました。鬼ってもう、ちっとも怖くないようです。

 最後に残ったのは、髭の生えた政治家のお面でした。それをつけてポン太は、ステッキをもって出かけました。集会所に行くと、ちょうど、選挙演説の最中でした。

「あそこの、狸山をぶっつぶして自動車道路にする。そうすればこの街はズンと栄える」

 と、どの候補者もがなり立てていました。

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