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女だからの経営論

電話片手に駆けずり回る

干し芋農家の川又さんの家には、電話が4台ある。家の中に2台、外の作業場に2台。回線は1本だから、電話が入ると4台一斉に鳴り出す。「はい、川又です!」広い屋敷のどこにいたって、注文の電話が取れる体制になっているのだ。それだけじゃない。例えば私が川又さんに干し芋の注文を入れたとする。すると、「東京の三好です」「東京の……ああ、三好かやのさん」と、こっちは名字しか言ってないのに、フルネームで名前を復唱してくれる。なんだかそれだけでVIP待遇を受けているような気分になる。川又正子さん(50歳)は、顧客名の大半を、フルネームで覚えているのだ。
電話片手に駆けずり回る


 干し芋農家の川又さんの家には、電話が4台ある。家の中に2台、外の作業場に2台。回線は1本だから、電話が入ると4台一斉に鳴り出す。

「はい、川又です!」

 広い屋敷のどこにいたって、注文の電話が取れる体制になっているのだ。それだけじゃない。例えば私が川又さんに干し芋の注文を入れたとする。すると、

「東京の三好です」

「東京の……ああ、三好かやのさん」

と、こっちは名字しか言ってないのに、フルネームで名前を復唱してくれる。なんだかそれだけでVIP待遇を受けているような気分になる。川又正子さん(50歳)は、顧客名の大半を、フルネームで覚えているのだ。

「年賀状と暑中見舞い、請求書、全部私が手書きで書いているから、自然に頭に入っちゃうんだよね」

 これにはパソコンの顧客管理ソフトもかなわないだろう。

 毎年12月から2月にかけては、干し芋づくりに追われる最も忙しい時期。年賀状を書いているヒマはないから、正子さんはその前に全部書きあげてしまう。冬場の寒い時期には注文も殺到。とても机の前に座って電話に出ている余裕はない。電話の子機と帳面を手にして、注文に応じながら作業場をかけずり回り、パートさんたちにてきぱき指示を与え続ける。

「今大量注文きたよ。みんな頑張って!」

「任せて!」

 こうして3ha分のサツマイモをすべて自分の所で干し芋に加工して、独自のルートで売り切る。たい肥づくりやサツマイモの栽培の生産部門は主に夫の信一さん(57歳)の担当。顧客管理やパートさんの手配、食事の準備などでは、正子さんが大活躍している。

 川又農産のある茨城県ひたちなか市や東海村は、昔から干し芋の産地として知られているが、数ある生産農家の中でも、自分で作った干し芋を仲買の力を借りずに自力で完売しているのは川又さんだけだという。

 茨城の特産品とはいえ、干し芋ならスーパーへ行けばどこでも手に入る昨今、お客さんに運賃を上乗せしてでも「川又さんの干し芋が食べたい」と思わせてしまう。その秘密はどこにあるのだろう?

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