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大泉一貫の農業経営者論

市場社会を生き抜け 政府のセーフティネットと経営者のリスク管理

本年7月に成立した「食糧・農業・農村基本法」のシャドーコンセプトは市場原理の一層の浸透である。
1 市場原理と財政原理


 本年7月に成立した「食糧・農業・農村基本法」のシャドーコンセプトは市場原理の一層の浸透である。消費者ニーズに沿った農産物生産を促し、そのことを持って食糧自給率の向上を図ろうとするのが法律の基本理念の一つだが、消費者のシグナルを市場原理を用いて相互に伝達しあうのがもっともいいとする発想である。

 とはいえ農業には市場原理に馴染むものとそうではないものとがある。その馴染まないものに関しては、政府が自らの財政的措置を持って対応しようとするのが法律のポイントである。

 食糧自給率の向上、農業の多面的機能の維持・増進、中山間地の活性化や農村の振興。こういった事柄が政府の役割として列挙されている。農業の多面的機能とは、国土保全機能や洪水防止機能、景観保持機能や保養機能など、農業が存在することによって国民が得られる外部経済効果を指す。これらの価値は農産物価格に反映できるわけではないので市場原理では対応できないとするのが法律のスタンスである。

 またこのことは先月から本格的にはじまったWTO閣僚会議の重要な主張の一つとなっている。市場原理一辺倒で農産物貿易を律しようとするアメリカ、オーストラリアやカナダなどのケアンズグループに対し、農業の外部経済効果である農業の多面的機能を保持する観点から農産物貿易を考え、その視点から国内農業生産をとらえようとするのが、日本をはじめ、EUやノルウェー、韓国など8か国の提案である。

 中山間地問題などの地域政策も、農産物を市場目当てに販売したから何とかなるという性格のものでないことも理解できるところであろう。今後人口減少が続くと予想されうる我が国で、国土全体にバランスよく人々が住み続ける為の定住政策は、都市の過密に対処しながら住空間を作ろうとする政策に劣らず重要な課題となってくる。少人数でも豊かに暮らせる農村住空間の確保は、そうした意味ではまさに21世紀の課題といっても言い過ぎではないのである。農業政策にはこのように農業や農村のあり方を哲学的なところまでさかのぼって考えるべき重要な課題が存在しており、それらは単に市場原理に任せていいというものではなく、やはり政府の役割として国家のあり方との関連で対処していく必要がある。その意味で国民的コンセンサスを得るために政府が果たす役割は、将来大きくなっていくであろう。

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