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【土門剛の「なんで?どうなる!」ニッポン経済】
農協を再建するための処方箋とは
- 土門剛
- 第13回 1999年12月01日
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次の一文は、関東地区某県のA農協の組合長が、「緊急 全職員に告ぐ」と職員に配布した内部文書である。収穫したコメを農協に出荷する、ちょうど昨年の今ごろに配布された。農協のおかれた厳しい現状を、組合長自らが赤裸々に綴っている。少々長目だが紹介しておきたい。
「本年は春以来の天候不順と8月末の集中豪雨により、農作物の被害は甚大なものでありました。とりわけ米については契約数量70万俵強に対し、11月2日現在で40万俵ほどの集荷実績であり、例年より30万俵の集荷減になると予想されます。当然来年度の事業計画作成にも多大な影響が出ると予想されますし、計画樹立が大変困難な事態であると考えます。
私は今、いくつかの支所の米集荷の実態を調査中でありますが、JAの職員の何人かが契約対比1割台の出荷率という現実を見た時、猛省を促すと共に、『自分はいったいどこから給料をもらっているのか』ということを真剣に考えてもらいたいと思います。職員は農協全利用が基本です。
現在、農薬や春肥の予約推進の最中にあり、推進に当たる職員も分かると思いますが、例えば『カクヤス』や『みのり』といった我々の競争業者が、農協が価格を設定すれば、必ずそれを下回る価格で目玉商品を出し、安いイメージを植え付けるというような策で対抗して来ることは常のことになっています。このように農協の経済事業ひとつを取ってみても大変な時代に突入しています。
今後の農協経営は、全職員が意識の改革をし、汗を流して行動をしなければ、給料の削減やボーナスのカットという事態になることは明白であります。バブルの崩壊などにより日本の一流企業や銀行がどんな苦しみを味わい、リストラを強いられているかを考えて下さい。
本年は有価証券の運用益が少し出ました。しかし、毎年柳の下にドジョウはいません。本来の農協事業は、営農を基本に金融・販売・購買等が一体となった事業展開の中で利益をあげ、組合員に還元し、職員の人件費を支払うというのが農協の姿であると考えます。」
こりゃいったい何のことだ。農協に出荷予約する契約を、職員自らが破り、高値で買ってくれる商人系業者に売っている。それで農家には農協へ全量出荷を呼びかける。漫画みたいな話だ。
そのA農協。栃木県がエリアだ。組合員は1万戸を超えるマンモス農協である。大半はコメの兼業農家で、山間部には畜産農家もいる。東北新幹線沿いは、都市化も進んで地銀や信金などと競合している。全国のごくごく標準的な農協というイメージがピッタリだ。
「本年は春以来の天候不順と8月末の集中豪雨により、農作物の被害は甚大なものでありました。とりわけ米については契約数量70万俵強に対し、11月2日現在で40万俵ほどの集荷実績であり、例年より30万俵の集荷減になると予想されます。当然来年度の事業計画作成にも多大な影響が出ると予想されますし、計画樹立が大変困難な事態であると考えます。
私は今、いくつかの支所の米集荷の実態を調査中でありますが、JAの職員の何人かが契約対比1割台の出荷率という現実を見た時、猛省を促すと共に、『自分はいったいどこから給料をもらっているのか』ということを真剣に考えてもらいたいと思います。職員は農協全利用が基本です。
現在、農薬や春肥の予約推進の最中にあり、推進に当たる職員も分かると思いますが、例えば『カクヤス』や『みのり』といった我々の競争業者が、農協が価格を設定すれば、必ずそれを下回る価格で目玉商品を出し、安いイメージを植え付けるというような策で対抗して来ることは常のことになっています。このように農協の経済事業ひとつを取ってみても大変な時代に突入しています。
今後の農協経営は、全職員が意識の改革をし、汗を流して行動をしなければ、給料の削減やボーナスのカットという事態になることは明白であります。バブルの崩壊などにより日本の一流企業や銀行がどんな苦しみを味わい、リストラを強いられているかを考えて下さい。
本年は有価証券の運用益が少し出ました。しかし、毎年柳の下にドジョウはいません。本来の農協事業は、営農を基本に金融・販売・購買等が一体となった事業展開の中で利益をあげ、組合員に還元し、職員の人件費を支払うというのが農協の姿であると考えます。」
こりゃいったい何のことだ。農協に出荷予約する契約を、職員自らが破り、高値で買ってくれる商人系業者に売っている。それで農家には農協へ全量出荷を呼びかける。漫画みたいな話だ。
そのA農協。栃木県がエリアだ。組合員は1万戸を超えるマンモス農協である。大半はコメの兼業農家で、山間部には畜産農家もいる。東北新幹線沿いは、都市化も進んで地銀や信金などと競合している。全国のごくごく標準的な農協というイメージがピッタリだ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門剛の「なんで?どうなる!」ニッポン経済
「あろうはずもない」と人々が信じ込んできたことが次々に起き始めている。まさに、風雲急を告げる日本経済そして農業界である。土門剛は「農協が倒産する日」他の多数の著書や本誌記事において、早くから農協・金融業界の破綻を予見し、その政・官界とのかかわりを指摘してきた。本誌ではこれから不可避的に発生する様々な事件とのそれに伴う混乱を乗切るために、日本経済の動向から農協問題そして農業経営について、読者の疑問に答える。
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