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江刺の稲

誰が日本の米を守ってきたのか?

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第57回 2000年11月01日

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ナショナルから家庭用の米研ぎ器が売り出されるというニュースを聞き、同社に製品資料の送付をお願いした。すると、わざわざ同社炊飯器事業部のO氏が機械を担いで当社をお訪ね下さった。
 ナショナルから家庭用の米研ぎ器が売り出されるというニュースを聞き、同社に製品資料の送付をお願いした。すると、わざわざ同社炊飯器事業部のO氏が機械を担いで当社をお訪ね下さった。

 実演を拝見し、米研ぎ器で研いだご飯も食べてみた。研いだお米を鍋に入れ水を注ぐと少し白濁している。しかし、それはヌカではなくデンプンの流出によるものだそうで、そのまま炊いてもヌカ臭さの無い美味しいご飯が炊けた。この家庭用米研ぎ器については、今月の「注目機・資材」覧(82頁)をお読みいただきたい。

 米研ぎ器の説明を聞くうちに炊飯器の話題になった。O氏の語る言葉の端々からは、お米や美味しいご飯へ寄せる思いが伝わってきた。O氏は中学卒業後松下電器に就職し、以来一筋に炊飯器事業部で仕事を続けてきて、あと数ヶ月で定年を迎えると伺った。

 ところで、電気炊飯器が商品化されたのは昭和28年。三洋電機が数ヶ月ナショナルに先んじたそうだ。しかし、その後ナショナルは一貫して炊飯器業界でトップシェアを維持している。さらに昭和63年、同社は電磁加熱方式の「IHジャー炊飯器」を開発。それはカマドで炊いたご飯の美味しさを実現させるものだった。同社はその特許を公開し、IH方式が現代の電気炊飯器の主流となった。

 同社の炊飯器事業部は水田に囲まれた場所にあるという。そこで働く炊飯器事業に一生をかけた多数の人々。全国の米産地の米を食べ比べながら、ひたすらに美味しいご飯の炊き方を追求してきた人々。そして、日本中の電気店や炊飯教室に出向き、美味しいご飯の炊き方を伝え続けてきたO氏のような人々。我が国の米消費のレベルを守ってきたのは、米の生産にかかわる者だけではない。むしろ、こうした炊飯器事業に取り組んできた人々の営業者としての熱意と努力の結果でもあるということを、どれだけの農民や米関係者は自覚しているのだろうか。多くの農業関係者は、今こそ炊飯器メーカーの人々の努力と熱意から学び、その力を合わせるべきである。

 もし、電気炊飯器が開発されていなかったら、お米が主食であるという我が国の文化すら失われていたかもしれない。品種改良や技術の向上で米の食味が良くなったとしても、電気炊飯器の改良と普及が無ければ食べる人々にそれを納得させることも出来なかったのだ。そして、ナショナルは今、家庭用米研ぎ器という商品の開発で、お米のマーケティングに強力な援護射撃を始めてくれた。

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