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江戸時代の農民の実像とは?
かつて、教科書会社に勤務していた頃のこと。「新しい歴史教科書をつくる会」という愛国思想を追求したグループが発行した教科書の普及を阻止するため、私は反対運動をしていた。誤解を恐れず申し上げると、そのグループが主張する江戸時代の農民観についてだけは、現在、共感している部分がある。それは「貧農史観」との決別というテーマである。
年貢の取り立てに追われるだけの貧しい農民…「貧農史観」とも言うべき一般常識は、歴史学の枠組みでは、既に過去のものとなっているのである。
本書にも、その成果が現れている。特に最終章で、当時の農民の知的水準の高さについて江戸時代に登場した「農書」の存在を引き合いに論を展開する部分は熟読・必見である。「農書」とは、近代の農業技術の礎となった日本最古の農業技術指南書のこと。これらは、専門家ばかりでなく市井の農民に手によって執筆・編纂されたものもあるというのだ。今後、江戸時代の農民の文化的素養の豊かさや、史料の芸術的な価値についても評価が高まるだろう。(芹澤比呂也)
貧農史観を見直す (講談社現代新書)
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