ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

作物別経営研究

サツマイモ ~良質・多収のためのサツマイモ作りとは?~

技術トピックス 生物農薬を用いたサツマイモつる割病の防除
茨城県農業総合センター農業研究所 渡邊 健


【はじめに】

 サツマイモつる割病は土壌中に生息するカビの一種、フザリウム菌によって引き起こされる土壌伝染性病害である。根や組織の傷口から植物体内に侵入した病原菌は導管内や木部柔組織に蔓延して水分の通りを悪くしたり、毒素を分泌したりするので、植物は最終的に枯れてしまう。

 圃場における木病防除の最大の要点は、土壌中の病原菌から菌の侵入部であるサツマイモ苗の切り口(傷口)を保護することである。一定期間、傷口を保護することができれば、傷口には新しい細胞組織が形成され、病原菌が容易に侵入できなくなる。現在では、「ベニコマチ」や「紅赤」、「ベニアズマ」等の食味の良い青果用品種は木病に対して感受性なので、木病防除法としてベノミル水和剤の定植前苗浸漬処理が慣行として実施されている。

 しかし、農作物の土壌病害を引き起こす悪名高いフザリウム菌のうちでも、その多くは土壌中で有機物を栄養源として利用して生活している病原性を持たないフザリウム菌(非病原性)である。このような非病原性のフザリウム菌は各種植物の体内(導管や表皮)にも生息していることが明らかになっており、非病原性フザリウム菌は健全な植物体内から容易に分離することができる。


【微生物が病害を抑制する】

 この非病原性フザリウム菌が植物体にわずかに生息しているだけでは、病害防除効果は得られない。人為的に大量の非病原性フザリウム菌をサツマイモ苗の切り口に接種することでつる割病の発病抑制効果を発現することができる(写真1参照)。この発病抑制のメカニズムは、まだ完全に解明されていないが、現在は次のように考えられている。

 多くの非病原性菌がサツマイモ苗の切り口部の柔組織にわずかに侵入すると、侵入された組織はごく弱い感染状態になり、その刺激に植物体が反応して抗菌性物質を生産したり、病原菌の毒素を解毒する機能が生じたりするものと考えられている。つまり、非病原性菌を植物に接種することで、植物体に抵抗性が誘導されるのである。人間のワクチン療法に類似しているが、植物が獲得した抵抗性は一時的なもので、効果の持続期間は短く、サツマイモの場合、菌の接種後5日程度が限度である。しかし、抵抗性が誘導されている間に苗の切り口には新しい細胞組織が形成されるため、実用的なつる割病防除効果が得られるのである。

関連記事

powered by weblio