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【江刺の稲】
あえて冷害被害者の管理責任を問う
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第92回 2003年10月01日
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東北・北海道で“冷害”が発生している。予定を変更して取り上げた今月号の「冷害特集」のために、東北地方の読者諸氏から話をうかがった。
筆者が聞いた限りでは、ほとんどの読者の水田では、周辺農家の被害状況とは異なり、品種や水田条件などによっての減収はあるものの概ね平年並みあるいはやや減収という程度にとどまっている。そして、異口同音に、10年前との条件の違いを話していた。それは耐冷性の品種の導入であり、オリゼメート等の薬剤それも箱施用剤などの普及、あるいは良食味米生産に焦点を併せた減肥指導も行われているなどである。そうした技術環境の違いを考えれば、適正な圃場と栽培の管理をしてさえいれば誰であってもこんなひどい被害は受けないで済むはずだと多くの読者は言う。さらに、少なからぬ読者が、これは気象災害というより、駄農の怠慢が招いた被害の大きさであり、共済だ、“被災者救済”などと騒がれることに首をかしげていた。
また、その多くが顧客を持った直売農家であるが、8月20日頃から米小売業者から米が手に入らないと泣き付かれており、この期に乗じた14年産米の買占めが始まっている状況も伝えてくれた。
おりしも、9月10日からカンクン(メキシコ)で開かれていたWTO(世界貿易機関)の第5回閣僚会議が交渉の継続を確認するだけで、何らの合意も得られずに閉幕した。農業関係者の中には新ラウンドの遅れをホッとした思いで見詰めている者もいるが、それはとんでもない誤りである。一方、閣僚会議に臨んだ亀井善之農水相が帰国後の記者会見で「消費者の期待に応えて農業の構造改革を進めることは時代の要請。スピード感が必要だ」として農業改革の推進を強調したと9月18日付けの産経新聞が報道しているが、今、農水相が語るべきコメントとして的を得ていると思う。
農産物貿易の既得権を主張し、あるいはそれを守るために自らの国益を主張することを否定しているわけではない。しかし、今年の冷害においては、指導されている標準的技術を行うことだけでかなりの被害回避が可能であったという読者の話が事実であるとすれば、冷害を受けてしまう農家の存在をどう考えればよいのだろう。我々は何を守ろうとしているのか。
被害を受けている方々には鞭打つような発言だと思われるだろうが、あえて申し上げる。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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