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新・農業経営者ルポ

新規就農だから見えた営業の哲理

「小規模・効率性・悠々自適」――。こんなポリシーを掲げる経営者が、宮崎県綾町にいる。脱サラして観光果樹園を開業。かつて国際ビジネスで鍛え上げた理論とマーケティング感覚、情報化を駆使し、安定的かつ「最適」の経営を実現した。他産業からの参入者だからこそ、従来の農業のあり方には厳しい目を向け、その矛盾点に警鐘を鳴らす。(秋山基)
 取材の直前、宮崎県には台風14号が接近しつつあった。日程の変更をお願いしようと電話をかけると、杉山経昌は用事のある日を挙げ、それ以外なら「いつでもかまいません」といった。

 「うちは(台風が)持っていくなら全部持っていってくれっていう考え方でやってますから」

 歯切れのいい口調と明快な言葉が、受話器を通じて耳の奥に残った。

 台風14号は同県内に甚大な被害を及ぼした。綾町でもキュウリのハウスが倒壊するなどの被害が出たし、杉山の果樹園ではモモの木がなぎ倒された。

 しかし、天災が通り過ぎた後にもかかわらず、本人はいたってサバサバしていた。「農業経営はリスクを折り込まないと成り立たないんですよね。だからジタバタしてもしょうがないし、台風とはケンカしない。『全部持っていってくれ』といったのは、そういう意味です」

 からりと笑い、さらに続ける。

 「普通、農家は、今年か来年に入ってくる予定のお金で生活するでしょう。台風にやられると前年分の生活費が払えなくなるから、無理にビニールを押さえたりして、結果的にハウスをつぶしてしまう。私は前年の収入の範囲、だいたい半分ぐらいで生活すべきだと思うんですが」

 〝清貧?を説くわけではない。経営の柱は実質52aのブドウ園だが、「コスト管理を徹底すれば、規模が小さい分、暇ができるし、改良・改善のアイデアが出せる」と杉山は話す。生産性と収益性を高めた経営と悠々自適な暮らしが、資金・時間・心理的な余裕を生みだし、経営に「プラスのサイクル」をもたらすという発想だ。

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