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新・農業経営者ルポ

新規就農だから見えた営業の哲理

 その結果、夫婦2人で年間3500時間働けば、650万円の粗収入があり、経費(変動費)は150万円という試算が出た。親子3人の生活費は200万円で、投資回収率は8%。「なんていいビジネスだ」と杉山は楽観視した。

 もっとも、実際に始めてみると、シミュレーションは机上論にすぎないと悟ることになる。初年度の総労働時間は6500時間。的外れな作業をしてしまうことが多く、特に除草に時間をとられたのが原因だった。収穫物ははすべて農協に出荷したが、粗収入は270万と試算を大きく下回った。経費は190万円と予想より多くかかってしまった。

 「こりゃ、やり直さなきゃダメだって気がつきました。ただ、シミュレーションをしているから、予測と現実の何が違うかは詳細に分かる。そこを攻めれば解決するという確信もありました。攻めて解決しない問題は世の中にないんです」

 田舎暮らしに憧れての就農だったが、ビジネスマンの習性は鈍っていなかった。「身についたイナーシャ(慣性)ですよ、残念ながら」と照れるが、この時はそれが役立った。

 さっそく翌年に向け、経営戦略を練り直す。小規模経営を成功させるため立てた戦術が、労働生産性・収益性・労働時間の指標となる「3・2・3ガイドライン」だ。

 まず労働単価を時間当たり3000円と決める。1時間働いたら、2000円は手元に残すこととし、年間総労働時間は夫婦で計3000時間(1人1500時間)と目標を決めた。

 「大事なのは『決める』こと。自分の労働単価を人件費と見て労働時間を積み上げなければ、投資判断や原価計算ができません。目標管理さえきちんとしていれば、収益性は上がるし、労働時間も減っていく」

 ガイドライン通りの経営が確立されれば、年間900万円の収入があり、手元に600万円が残る計算になる。労働時間は、計画当時のドイツ人の平均値、1800時間を意識して設定した。「ドイツ人より休んでやるぞと思ったわけです」

 実際の経営面ではブドウの系統出荷をやめ、観光ブドウ園での直売に切り替えた。開業に先立ち、アクションプログラム(行動計画)を策定し、ロゴマークやビラの制作から、直売所の設計、宅配便の調査など、準備すべきことを40項目挙げた。

 40番目には標準作業手順(販売マニュアル)を作った。夫婦どちらが来園客に対応しても、必要最低限のサービスを維持するためだ。

 ブドウの直売は、前年に少し試みており、杉山の読み通り、出足から好調だった。開業2年目には早くも黒字化し、さらに、販売期間が短いほど、「あそこのブドウはうまいに違いない」と評判が立つことが分かった。

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