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新・農業経営者ルポ

新規就農だから見えた営業の哲理

 直売専業を目指す以上、顧客データはコンピュータで管理し、リピーターにはダイレクトメールを出す。いったん口コミが広がれば、ブドウ作りに専念できるし、技術を磨く余裕も生まれる。生産が追いつかなくなった時点で、キンカン畑をつぶして第2ブドウ園を作り、農協への依存度が高い野菜は徐々に減らしていった。

利益は規模に比例しないつかむべきは極大点

 93年、宮崎県を「百年に一度」と言われる台風と記録的な長雨が襲った。ブドウ園は冠水し、直売所も損壊。自然の猛威を見せつけられた年だったが、驚いたことに、そんな状況でも450万円の収入があった。

 「最悪の年でも十分食っていけたし、再投資できるだけのお金も残った。これで農業を続けていけるという自信をもちましたね」

 現在、葡萄園スギヤマは、ガイドラインの水準である年間約900万円を売り上げている。この金額は、4倍の規模をもつ知り合いのブドウ農家と比べても遜色がない。

 「あっちは多額の経費をかけていますから、利益は私の方がかなり大きいはずです。丁寧にものを作り、丁寧に売って、丁寧に顧客ベースを管理する。そうすれば、規模が小さいほど効率を上げられるんですよ」

 狙うのは利益の拡大ではなく、一定の生産規模における利益の極大化だ。「一般論としても、規模と利益は一次関数ではありません。だからこそ、利益の極大点をつかむ必要があるし、そうした努力によって、経営は飛躍的に安定する」。この過程を杉山は経営の「最適化」と呼ぶ。

 労働時間の短縮については、5カ年計画を基に投資を繰り返し、5年目に目標を達成した。年間3000時間とは、夫婦2人で1日10時間働けば、週休4日が実現したことを意味している。


事業継承の仕組みを作り新規参入に道筋を

 綾町と言えば、町を挙げた有機農業の推進で知られる。就農当初、杉山はそのことをまったく知らなかったが、いくらかエコロジー的な方向性から農業に入ったことは、すでにふれた通りだ。除草剤や植物成長調整剤は使わず、減農薬や有機質肥料を重視する。その一方で「何がなんでも有機という主張には論理的根拠がない」と考えるようになった。

 むしろ生産者としては、施肥基準や肥料の有効成分表示に批判の目を向けている。以前、表計算ソフト上に施肥設計のプログラムを作成した際、設計の根拠をめぐって、戸惑った経験があるからだ。

 「文献を見ても基準がバラバラで、何にどれだけの肥料が必要なのかが定まっていない。有効成分は窒素・リン酸・カリだけに終始しているし、本当に必要な肥料が存在しなかったりする。栽培のベースがまったく構築されていない」

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