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【新・農業経営者ルポ】
我あえて火中の栗<GM>を拾う
- バイオ作物懇話会 長友勝利
- 第13回 2005年06月01日
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いつの間にか、渦の中に巻き込まれてしまった。長友勝利にはそれが不本意でならない。春先、自宅にいると、様々な自治体の農政担当者から電話がかかってくる。
「長友さん、今年はやらないでしょうね。やるんですか。やりませんよね……」
これが行政が口にする言葉だろうかと半ば苛立ち、半ばあきれる。「今年はまだ計画していません。やらないとは言いませんが、計画はありません」
そう答えると、役人の多くは「あ、そうですか」と安堵したように息をもらすそうだ。
事件は2003年の夏に起きた。茨城県谷和原村の農地で、「バイオ作物懇話会」が試験栽培していた遺伝子組み換え(GM)大豆20a分が無断ですき込まれた。
実行したのはGM作物の栽培に反対する市民団体。大豆が開花しているのを見て、「花粉が周囲の大豆畑に飛び、交雑する危険性がある」として、懇話会に刈り取りを要請した。同会はこれを拒否。栽培を続けようとしたが、団体側はトラクタを乗り入れて畑を破壊した。
懇話会の代表を務めているのが長友だ。あたかもGM推進派の「首魁」のように扱われ、谷和原事件では被害者であるにもかかわらず、GM反対派から激しい非難を浴び続けている。本業は宮崎市の水稲専業農家だ。
GMは時代にあった栽培技術「不安」に科学的根拠はあるか 始まりは96年だった。GM作物7品種の安全性が国によって認められ、国内栽培が可能になった年、長友は仲間と8人で懇話会の母体を立ち上げた。
「今のような事態になるとは想像もしませんでした。GMは新たな、すばらしい品種改良技術だと感じましたし、経営安定に役立ちそうに思えた。ただ、その技術のなんたるかがよくわかからない。とにかくまず、勉強したいと思ったんです」
研究機関が主催する講演会に足を運び、GM大豆の審査申請者である日本モンサント㈱の営業マンからも直接話を聞いた。除草剤耐性の大豆を栽培すれば、農薬散布が減らせる。汚粒の原因となる雑草を低コストで防ぐことができ、作業も簡素化される。
長友はGM技術に魅力を感じた。
「昭和20年代から農業を見ていますから、かつてのお粗末な品種、低収量や農作業の苦しさを知っています。科学の大切さ、時代に合った栽培技術の必要性を考えるんですね」
会員の間には「もっと勉強のレベルを上げよう」という声もあった。そこで、反対派と呼ばれる人々の意見にも耳を傾けたが、「危ない」「不安だ」と主張するばかりで、科学的な根拠が示されていないと感じた。
「既存の作物はどれ一つとして安全性審査を経ていない。食べるとアレルギーが出るものもあるし、毒性を持つものもある。その点、GM作物は安全性や環境への影響についての審査を受けています。それでも『不安』と言うなら、『安全』の根拠とは何でしょうか」
懇話会の会員は北海道から沖縄まで、長友の想像を超えるスピードで増えていった。現在は農家だけでも680人が加わっている。その熱意に触れるうち、長友は「みんな苦しんでいるのだ」と感じ始めた。「GM技術で農家に活気が生まれたら、農業の発展につながる」。その思いが活動を続ける信念となった。
「長友さん、今年はやらないでしょうね。やるんですか。やりませんよね……」
これが行政が口にする言葉だろうかと半ば苛立ち、半ばあきれる。「今年はまだ計画していません。やらないとは言いませんが、計画はありません」
そう答えると、役人の多くは「あ、そうですか」と安堵したように息をもらすそうだ。
事件は2003年の夏に起きた。茨城県谷和原村の農地で、「バイオ作物懇話会」が試験栽培していた遺伝子組み換え(GM)大豆20a分が無断ですき込まれた。
実行したのはGM作物の栽培に反対する市民団体。大豆が開花しているのを見て、「花粉が周囲の大豆畑に飛び、交雑する危険性がある」として、懇話会に刈り取りを要請した。同会はこれを拒否。栽培を続けようとしたが、団体側はトラクタを乗り入れて畑を破壊した。
懇話会の代表を務めているのが長友だ。あたかもGM推進派の「首魁」のように扱われ、谷和原事件では被害者であるにもかかわらず、GM反対派から激しい非難を浴び続けている。本業は宮崎市の水稲専業農家だ。
GMは時代にあった栽培技術「不安」に科学的根拠はあるか 始まりは96年だった。GM作物7品種の安全性が国によって認められ、国内栽培が可能になった年、長友は仲間と8人で懇話会の母体を立ち上げた。
「今のような事態になるとは想像もしませんでした。GMは新たな、すばらしい品種改良技術だと感じましたし、経営安定に役立ちそうに思えた。ただ、その技術のなんたるかがよくわかからない。とにかくまず、勉強したいと思ったんです」
研究機関が主催する講演会に足を運び、GM大豆の審査申請者である日本モンサント㈱の営業マンからも直接話を聞いた。除草剤耐性の大豆を栽培すれば、農薬散布が減らせる。汚粒の原因となる雑草を低コストで防ぐことができ、作業も簡素化される。
長友はGM技術に魅力を感じた。
「昭和20年代から農業を見ていますから、かつてのお粗末な品種、低収量や農作業の苦しさを知っています。科学の大切さ、時代に合った栽培技術の必要性を考えるんですね」
会員の間には「もっと勉強のレベルを上げよう」という声もあった。そこで、反対派と呼ばれる人々の意見にも耳を傾けたが、「危ない」「不安だ」と主張するばかりで、科学的な根拠が示されていないと感じた。
「既存の作物はどれ一つとして安全性審査を経ていない。食べるとアレルギーが出るものもあるし、毒性を持つものもある。その点、GM作物は安全性や環境への影響についての審査を受けています。それでも『不安』と言うなら、『安全』の根拠とは何でしょうか」
懇話会の会員は北海道から沖縄まで、長友の想像を超えるスピードで増えていった。現在は農家だけでも680人が加わっている。その熱意に触れるうち、長友は「みんな苦しんでいるのだ」と感じ始めた。「GM技術で農家に活気が生まれたら、農業の発展につながる」。その思いが活動を続ける信念となった。
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長友勝利 ナガトモカツトシ
バイオ作物懇話会
1944年宮崎市の農家の長男に生まれる。自動車整備工場を起こした後、本格的に農業に取り組む。96年遺伝子組み換え作物の勉強会を発足。01年会の名称をバイオ作物懇話会とし、除草剤耐性大豆の試験栽培を始めた。本業では、近隣農家との共同で水稲の大規模経営を想定した法人化を目指している。
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