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特集

事業計画書は夢を伝える手段!

旧態依然たる農業界に挑戦状を送りつける猛者も

大泉 好き嫌いが顧客によって激しく分かれる商売といえるでしょうね。無条件に「農村」が受け入れられるからといって、それに甘んじていると間違いのもとになる。今、農家レストランというのがもてはやされていますけど、提供されている料理は、料理として洗練されていない。それでも客が行くのは、“温情”に近いものがあるんだということを踏まえないと。

昆 料理が本当にお客さんの求める価値を提供しているかどうかが鍵になるわけですね。

大泉 また別の視点から見ると、農業経営は長期的視野で考えるものだけど、がなり氏の場合、外食事業ということもあって顧客の変化に合わせて展開していくので、短期的視野で経営を考えている。その発想を含めて、農業界に挑戦状を突きつけているビジネスプランだといえるでしょうね。

昆 (有)伊藤畜産・伊藤康通氏(北海道)による牧場フットパスはいかがでしょう。私は、根室という辺鄙な場所にありながら、今ある経営資源をうまく生かしていると思います。お客さんは全国各地から、しかも年間を通して来ているそうです。また、フットパスに喫茶店や物販を行なう施設があるのですが、それを仲間でやっている。結果的には地域に貢献しているけれど、農協や役所が主導した形ではない、伊藤氏独自の発想があると思いました。

樫原 観光施設という点では、決して背伸びをしているわけでもなく、昔からあるものを使う発想は悪くないです。観光施設というのは、ジワジワと火が着くものですから、地道に続けていけばいいのではないかと思います。

大泉 ただ、フットパスを事業化することで自身の農業経営がどう変わるか、地域の農業界に与えるインパクトはどの程度なのかということが、伝わらなかった。そこをもっと強くアピールしてほしかった。

昆 (有)アグセス・岡本信一氏のJunCrop(ジュンクロップ)は、いかがでしょう? プレゼンというよりも、説法だったという意見もありましたけど(笑)。

樫原 ビジネスプランの名前の意味がよく分からなくて、懇親会で聞いたら、恥ずかしそうに「奥さんの名前から……」と(笑)。最初からそう言えばもっと共感してもらえたのに! と思いましたけど。

昆 つかみは大事ですね(笑)。

大泉 普通の産業としては当たり前にやっている、どういったスペックで何を作る、そのための技術を考える発想は今までなかった。そのことをあらためて示してくれたという意味では、旧態依然たる農業界にとっては斬新な意見です。

樫原 本来は普及指導員がその役割を担うべきなんですよね?

大泉 べき論でいえばそうなんだけど、官業の問題は課題設定ができないこと。できるのは、せいぜい収量をよくするか、あるいは農産物が病気になるのを防ぐかぐらいしかない。

昆 一般的には、コンサルタントとクライアントの関係が成立するけど、日本の場合、無知蒙昧な農民に対して「指導」するわけですし。なお、岡本氏の方は、受賞はなりませんでしたが、カルビーポテト(株)さんとのお付き合いが始まるようですので、名よりも実を取ることができたということをご報告しておきましょう。

昆 さて、グランプリを受賞した(有)さかうえ・坂上隆氏による耕畜連携によるサイレージ供給サービスについては、いかがですか?

大泉 本当にオーソドックスだけど、粗放な農業経営の実例で、こうやって持続可能にするという典型でしたね。

昆 おなじみのヒール宮井氏が今月号のコラムでチクリとやっていたり、木村慎一氏(青森県)が「高いじゃないの」と会場内で声を上げていたけど、確かに北海道ではもっと安価でサイレージを作ることができる。でも、鹿児島ではサイレージを作ることができる土壌規模にない。北海道から持ってくると言うわけにもいかない。そこに彼は目をつけた。要するにお客さん、マーケットの存在に気付いたわけです。そこに価値があります。

樫原 なるほど、エサの地産地消か。それに、補助金があるかないかで経営の方向性を決めるのではなく、マーケットがあるかどうかで決めるということを示している好例ですよね。

大泉 商品名が「サイロール」、つまり新商品を作りだしたという部分も評価したいですね。

樫原 ちなみに、この事業は昨年12月に農商工連携事業として認定を受けましたね。本来農業生産法人である(有)さかうえが商工業者、つまり加工するメーカーの役割を果たしている画期的な事例です。従来の農業を超える可能性を示してくれましたね。

昆 さて、ほかにもご出場願った、多くの読者に対する講評をここに掲載できないことをお許しください。また、A-1グランプリに参加しなかった読者の方にも、今回の特集を通じて、事業計画書という形に落とし込むことの意味を理解し、ご自身にしかできないビジネスプランをご用意の上、来年予定しております第2回A-1グランプリに出場していただきたいと思います。どうもありがとうございました。

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