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新・農業経営者ルポ

目線の揃う需要者との連携こそが食文化を守る

 もともと高級食材として料亭や割烹料理店に売り先が限られていたはじかみだが、ネット販売を始めてから、徐々にではあるが個人顧客も定着し始めた。セット販売の商品を企画したことで、贈答品としての需要も増えてきた。木村自身は、天ぷらにして食べるのが一番うまいと言う。かつては生産者しか食べることのなかったものだろうが、それをホームページを通じて人々に勧めている。その効果もあってか、今では贈答品だけでなく、個人家庭の日常食材としても注文が増えてきているそうだ。

 さらに木村は、はじかみを海外の和食ブームに合わせてヨーロッパにも輸出している。香港のマーケットに向けても売り込みに動いている。木村は、それによって本物の日本の食文化が広まっていくことを願っているのである。

 また、ショウガを使った本物のジンジャーエールの開発にも取り組んでいる。本物のショウガを使ったジンジャーエールを出してお客さんに喜ばれた料理店からの提案であり、共同して商品開発に取り組んでいる。

 高級食材であるがゆえに普通のスーパーで売られることがなく、昔からマーケットが限定されていた一線を超えようというのだ。

 先に悪貨が良貨を駆逐したと書いた。中国産の加工品がはじかみのマーケットを広げたように見えるが、木村に言わせるとそれは形だけのはじかみであるという。むしろ本物の金時ショウガを使ったはじかみの価値を知らないまま、食べず嫌いにしてしまうと心配している。

 極限まで小さくなってしまった本物のはじかみのマーケット。木村に案内された懐石料理店で、木村のはじかみを食べた。店の女将はこう話していた。

 「うちの人は各地の料理店で修業を積んだ根っからの懐石料理の職人です。彼が言うんです。木村さんのはじかみには色気があると」

 先にも言ったが、食材は生産者の頑張りだけで守られるものではない。むしろその食材を調理する技を持つ職人や商売人がいてこそ守られるのである。本物の食文化とは、生産者が磨き上げた農産物に、洗練された料理に加工する職人技と、もてなしの心を持ったサービスとが組み合わさり、それが人々に支持されて初めて守られるのである。目線を揃え(理念を共有し)、食文化や顧客を共有する異業種が手を取り合ってこそ、実現するのだ。

 どん底の経営状態のなかでも、はじかみ作りを諦めようとしなかった木村の後ろ姿を見ればこそ、聡美はその仕事を受け継いだのではないだろうか。(文中敬称略)

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