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【土門「辛」聞】
民主党「戸別所得補償制度」は選挙民を釣る毛針のようなもの
- 土門剛
- 第61回 2009年08月01日
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所得補償なのに、実はコスト補てん
自民党か民主党か——政権選択を問う選挙戦がいよいよスタート。選挙結果次第で農業政策も一変する。民主党が勝てば、あの公約が動き出すのだ。1兆5000億円規模の「戸別所得補償制度」。世間ではバラマキ農政の極致と悪評サクサクだが。
民主党はこの「戸別所得補償制度」を1年前倒しの「11(編集部註・平成23)年度から」実施すると、7月23日付け朝日新聞が伝えた。零細農温存の究極のバラマキ農政か、日本農業再建に役立つものか、筆者なりに分析を加えてみたい。まずは制度のイロハから。なお今総選挙向けマニフェストは、解散日(7月22日)時点では公表されていないので、次の2点の資料を参考にする。
一つは、昨年12月、民主党「次の内閣」閣議で決定した、民主党農林水産政策大綱「農山漁村6次産業化ビジョン」。略称、6次産業化ビジョン。俗に言う選挙用ビラだ。もう一つは、今年1月に衆議院に提出した「農林漁業及び農山漁村の再生のための改革に関する法律案」。「農山漁村再生法案」と略しておこう。6次産業化ビジョンを本気で取り組む、そんなメッセージを送るために出した法案だが、解散で廃案に。
この「6次産業化」を一時は農水官僚も熱病のように冒されて目玉政策に据えたこともあった。その時、広告塔のように使ったのが、山口県のS氏。別名、「補助金キング」という声も。農水省は6次産業化実現のため、そのS氏に補助金を湯水のように垂れ流したが、今や「借金の海」で沈没寸前に。唯一の成功例があるとすれば、中山間地の高齢・零細規模農相手の直売所ぐらいか。
気になるのは、大規模農業への民主党のスタンスである。筒井信隆ネクスト農林水産大臣(新潟6区)は、一昨年9月、民主党「次の内閣」IN新潟でこう発言。
「政府が進める品目横断的経営安定対策は大規模農家だけを対象にしたもので、『4町歩以下の農家は農業をやめろというものだ』と指摘。対する民主党の戸別所得補償は農作物を販売している農家はすべて対象だと説明するとともに、大規模農家だけで地域はもっているわけでない。小規模農家も含めて農村は成り立っている」(民主党ホームページより)
大規模農業に対し敵意のようなものがうかがえる。これが民主党農業政策の基本のように思えてならない。
その一方で零細農温存に対する熱意は執念のようなものがある。一昨年、昨年と農業者戸別所得補償法案を国会に提出、いずれも否決・廃案になっている。政権交代にリーチがかかった、この6月に提出したのが、先の農山漁村再生法案。前者と違うのは、農業だけでなく、林業や漁業にも所得補償の対象としたことである。従って所要の予算額も1兆5000億円に膨らんだ。 民主党「農家戸別所得補償」。所得補償と呼べる代物ではないというのが、筆者の見解。厳しく批判すれば、羊頭狗肉。あるいは有権者を引っかける毛針か。何はともあれ、農山漁村再生法案から概要を紹介しておこう。まず戸別所得補償のポイント。
「生産数量の目標に従って主要農産物を生産する販売農業者に対し、その所得を補償するため、生産に要する費用と販売価格との差額を基本として算定される交付金を交付する」(17条)
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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