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イベントレポート

農村経営研究会 第4回定例会 農業経営コンサルティング会社の取り組み/福島県にスマート・テロワールは生まれるか 松尾雅彦氏、提唱の実現に向けて

■農村経営研究会 第4回定例会 農業経営コンサルティング会社の取り組み

(株)農業技術通信社は昨年12月5日、農村経営研究会 第4回定例研究会を東京都高田馬場で開催した。農村経営研究会は、有志の農村経営者と企業人が業種や地域を超えてネットワークし、農業・農村の事業開発をともに進めていくための実践的研究会である。
これまでの活動では、会員の農業経営者の側からの問題提起や事例報告をもとに検討してきた。今回は、会員のコンサルティング会社の側から農業関連事業の取り組みが紹介された。それに対して相談役の松尾雅彦氏のアドバイスを受けながら、農村経営における農業やコンサルタントの役割について意見交換が行われた。

【事業計画作成を支援】

はじめに、企業の財務報告を主な事業としている新日本有限責任監査法人(以下、監査法人)の菊池玲子氏より、自社の農業関連のコンサルティング事業と農林水産省の受託事業の紹介があった。
監査法人では、「農林水産ビジネス推進支援センター」を開設し、農業生産法人や補助事業を担当している官公庁に対して、事業計画の作成や資金調達の資料の作成の支援をしている。また、農業生産法人が上場した場合は、監査法人の主な事業でもある会見監査を請け負う。必要があれば、仕入れ先や販売先、金融関係との調整も行っているという。
また、国の事業の受託をしており、その一つが「六次産業化サポートセンター」である。この事業は都道府県ごとに受託者が異なるが、監査法人は14年6月より宮城県を担当し各種相談に応じている。六次産業化の中には国に認可されると補助金を受けられる「総合化事業計画」があるが、監査法人は、その事業計画の作成を支援する役割を担う。事業を始める際には各分野の専門家を派遣している。
もう一つ、国の事業の「オンライン アグリ ビジネススクール」を受託している。これは農業経営者の育成を目的とし14年にスタートしたオンライン上の人材育成プラットフォームで、3段階のコースのうち1段階目の「ベーシックオンラインカリキュラム」は初級者向けに無料で公開している。

【農業界と経済界の連携を支援】

つづいて、監査法人のグループ会社(EYグループ)であるEY総合研究所の大浦久宜氏より、農業界と経済界の連携を推進する農林水産省の受託事業の紹介があった。
「農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」は、農業法人と先端技術を有する企業が連携し、低コスト生産技術、効率的生産技術体系、低コスト農業機械、新しいビジネスモデルといった先端的な取り組みをする場合に国が補助する事業で、EYグループは、この事業を受託している。大浦氏によると、農林水産省が農業以外の大企業にお金を出すという点が従来の事業とは異なるという。
補助の対象になるかどうかは4つの視点で審査される。その技術で生産コストの低減の効果があるのか、新規性があるか、3年以内に実現可能性があるか、普及の可能性があるかというものだ。たとえば26年度は、稲の窒素濃度を測定する無人ヘリ、精度の高いブルドーザー、1kmメッシュで72時間先の気象条件が分かる気象予報、無人で実走するトマトの収穫ロボット、重い荷物を持つためのアシストスーツなど、16のプロジェクトが実施されたという。
EYグループはこのほか、私企業が社会貢献活動の一環として実施している東北復興事業の事務局としても農業の支援に携わっている。

【有機物を使った農業を習得してコンサルティングする】

国の土木事業のコンサルティングを請け負っているCTIグループの一つ、CTIフロンティアの野村奏史氏より、自社直営の営農事業と農業のコンサルティング事業の紹介があった。
CTIフロンティアは農業のコンサルティングを目指したグループ内のベンチャー企業ある。コンサルティング会社でありながら、埼玉県の久喜市に自社直営農場を構え土地利用型の野菜生産をしている。自分たちが目指す農業の知見を直営農場で試し、知見と現場のノウハウを活かしたコンサルティングを提供するためであるという。
CTIフロンティアが特に力を入れているのが「有機物を使った農業」を確立することである。具体的には、土壌中の微生物を調査する技術を導入し、微生物の数を調べ、有機物を投入することで土壌の改善がみられるか直営農場で検証している。これは、立命館大学の研究プロジェクトの実践でもある。野村氏は、コンサルティングを通じて、この「有機物を使った農業」を全国に広めたいと考えている。
農村経営についても農業の知見と、自社の持つ技術や外部とのネットワークを使い、経済的に成り立つ経営モデルを作りたいという。

【助成金は必要か否か?
企業経営か家族経営か?】

それぞれの説明に対して、相談役の松尾雅彦氏からのアドバイスや、会員からの質問や意見があった。
国からの助成金については、新規事業をはじめるリスクを軽減するために必要ではないか、助成金があるためにかえって経営が揺らぐのではないか、助成金は過剰だと問題が起きるのではないか、設備投資という方法だけではなく、土地利用型の農業経営者が参入しやすい助成のあり方を検討して欲しい、国からではなく消費者からお金をもらうのがビジネスであるなどの意見が出た。
また、企業による農業経営について松尾氏は、次のようにアドバイスした。「世界的には農業は家族経営が主流である。ここでいう家族経営というのは、大規模か小規模か、血縁者か従業員かの問題ではなく、その土地の生態系の中で農業を営むという意味である。従業員には、自らが生物や気象の変化を捉えて農業の知識や技術を深められる環境をつくってやることが重要だ」これに対して会員からは、これからの農業には従業員が必要、家族の目線で作物を育てるべき、経営力のある家族経営が必要だ、などの意見が出された。
14年の総括として事務局長の昆は、次のように述べた。
「日本の農業はなぜ途上国型であるのか。途上国型の農業政策が続いてきたからではないか。なぜ、農業、農村がこうなったかを検証すべきだ。生産者本位、農村本位で予算がつく事業のような、今までの延長線上で解決策を求めても、うまくいかないだろうと思う。農村経営研究会では、根本に戻って考えよう」

福島県にスマート・テロワールは生まれるか 松尾雅彦氏、提唱の実現に向けて

(株)農業技術通信社主催の農村経営研究会の相談役で、著書の出版を機にスマート・テロワール協会を起ち上げた松尾雅彦氏は昨年12月、自身が提唱する「スマート・テロワール」が構築されることを期待している福島県郡山市を視察した。
「スマート・テロワール」とは、気候や風土が同じ農村部が行政上の境界を超えた広域連合を形成した経済圏で、食料や資源、エネルギーの「自給圏」(地産地消)を成立させることができる最適な広さの地域ユニットのことである。福島県には、東側の浜通り、中部の中通り、西側の会津と呼ばれる3つの地方があり、郡山市は中通りの南側に位置する。松尾氏は、この郡山市とその周辺地域を含む中通り南部(以下、郡山地区)に一つの「スマート・テロワール」を築くことを提唱している。

【福島にこそスマート・テロワールを勧めたい】

松尾氏がこの郡山地区に注目するようになったきっかけは、この地でふるや農園を営む降矢敏朗氏と出会ったことである。
降矢氏との出会いは昨年5月にさかのぼる。農業技術通信社が主催する農村経営研究会(以下、研究会)で降矢氏から、いわゆる限界集落となった郡山市の川曲集落をどう再建すればよいかという問題提起があった。川曲集落は養蚕と葉タバコが主産業だったが、今は耕作放棄地を抱え、先の東日本大震災の原発事故によってさらに人口減少が進み、農産物は風評被害を受けいる。降矢氏は震災前から仲間とともに村の再建活動に取り組むうちに、耕作放棄地を放牧養豚で整備できると知り、それを土台に村を再建できないかと考えていた。その話を受けて7月、松尾氏は研究会の会員とともに川曲集落を視察し、同じく7月に開催された研究会で、川曲集落を含む福島県の課題を考察した。
このとき松尾氏は、福島県の農業が受けている風評被害を解決することは、全国共通の課題を解決することになるという考え方を示した。
風評被害によって従来の流通システムが機能しなくなった大きな要因は大都市圏の消費者を顧客としてきたことが考えられると松尾氏はいう。これは全国共通の流通システムである。1960年代、スーパーマーケットの台頭や交通網などの進化によって流通革命が起き、農産物や加工食品は地元の住民ではなく大都市圏の消費者に向けて販売されてきた。また、需要と供給によって価格が決まる市場経済の中で、食料が供給過剰となった1972年以降も農産物は市場に出荷されてきた。こうして地産地消が失われ、供給者側が不利となり、全国の農村が衰退し、福島県では風評被害との影響をもろに受けた。
この状況を解決し、逆にチャンスに変えてほしいと考えた松尾氏は10月に開催された研究会で、川曲集落を含む郡山地区の人口55万人の地域ユニットで「スマート・テロワール」を構築することを提唱した。地産地消を成立させるための「スマート・テロワール」は福島県にこそ勧めたいもので、郡山地区が全国の先駆けとなってほしいという期待を述べた。

【住民とともにモデルケースをつくる】

松尾氏は、食料を地産地消するためには、地元住民が地元のものを買うという消費行動があってはじめて成り立つと考えている。そのためには、地元の「おいしいもの」を大都市圏の消費者よりも先に地元の住民のために確保して販売し地元で食べてもらうことを勧めている。
福島県の状況を見ると小売店では輸入原料を使用した加工食品が数多く販売されている。たとえば大豆を用いた味噌や醤油、豚肉を用いたハムやソーセージである。一方、福島県はコメの生産量の過剰率が高い。川曲集落のような中山間地域でコメの代わりには降矢氏が手掛けているような畜産物を生産するほうが適している。
そう分析した松尾氏は、郡山地区に築き上げる「スマート・テロワール」において、降矢氏の取り組んでいる放牧養豚とその加工品が一つのパーツになると考えた。
そこで今回、松尾氏はあらためて降矢氏の営む放牧養豚を視察した。降矢氏との対談で松尾氏は、「スマート・テロワール」を築くためには30年後のビジョンを描き、それを見据えた戦略、戦術が必要であるとした上で、最初に着手することとして、住民とともに放牧養豚とその加工品の生産、加工、流通、消費のモデルケースをつくることを提案した。
放牧養豚の視察には、地元紙、福島民報が取材に訪れた。松尾氏は記者に対し、郡山地区における「スマート・テロワール」の構想を解説した上で、「スマート・テロワール」を築くには住民の参加が必要であると伝えた。福島民報からこの取り組みが発信されることにより、この日から福島県で「スマート・テロワール」の構想の実現に向けて取り組みの第一歩がはじまった。

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