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実践講座:したたかな農業を目指す会計学 続・入るを計り出を制す!

第七章 損益計算書の読み方(2) 費用の発生を捉えて、出を制す

【万が一に備える心構え】

気象庁では、世界の異常気象の各種データ・資料を年毎に公開している。昨年は20件の報告が示されており、高温、干ばつに加えて、多雨が目立つ。最も目にとまったのは、フランスのバスティア。7~8月の2カ月の降水量が、平年比で592%だったことだ。バスティアはナポレオンの生誕地として有名なコルシカ島の北部に位置し、年間のほとんどが晴れるところらしい。
フランスどころか、我が町も先日豪雨に見舞われた。大豆の播き直し、ジャガイモ培土のやり直し、水田への土砂の流入。近隣の市町村でも同様の被害が大きかった。私の農場でも土手が60mほど崩れ、一部が排水溝を塞ぎ、放牧地は冠水。川の対岸からは大木が農道を越え、圃場に倒木した。自力での復旧が難しいと早々に判断し、土建屋さんに依頼したが、見積もりは100万円。緊急の出費が見込まれる惨事となった。
このような異常気象に伴う被害を経営的に考えてみよう。多くの経営者は、総じて低コストを考え、実践している。このとき、万が一を想定して準備ばかりを行なうと、その準備にかかるコストが生産コストに上乗せされ、予算を絞ろうとする経営者の本能とのせめぎ合いとなる。
備えの代表例は保険である。万が一の事態が発生したときに支払われる保険金。自ら納めた掛け金が、窮地を脱する助けになる。圃場改良もその一例である。農作物への大雨や干ばつの被害を、最小限度に食い止めるためには土づくりは欠かせない。労力、機械装備、生産資材など、準備を怠りなく尽くすほど、そのコストは跳ね上がる。「転ばぬ先の杖」の杖は高額なのである。
日本人の勤勉、緻密、計画的な性格はコスト・マネジメントに最適であると言われてきた。資源のない国であるからこそ、モノを無駄にしない体質は、言わば培われたノウハウであろう。
一方で、経済が豊かなときに経営者となった我われは、国の支援も手伝ってか財布の紐は緩みがちである。原価を管理し、不測の事態である異常気象に備える心構えと予算の確保を優先せねばなるまい。積極的に事業展開する経営者こそ、日ごろのやりくりから、高額な転ばぬ先の杖を手にしておくべきである。
災害に負けず乗り越える力は、日頃から出(いずる)を制し、予算管理と、不測の事態への準備金を蓄えることで磨かれる。大切な原則は「稼げば遣える」ではなく「稼げば、やりくりできる」である。収益と費用は災害などでは連動し、減益につながりやすい。費用管理とは、予算という自ら立てた戒律と、投資という誘惑との闘いで、精神的な鍛錬も必要となる。今回は損益計算書の読み方の第二弾で、費用の見方とその分析、管理のコツについて解説する。

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