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こんな幸運は、現代の農業経営者には巡ってこないと思うので、現実離れした昔話はさておき、本題に入ろう。損益計算書の3つ目のテーマは、採算ラインの見極め方である。基本編と応用編に分けて、今回と次回の2回で解説する。
損益分岐点で頭を鍛えよ
私は経営の損益を、3つの関門に分けて捉えている。まず、第一関門は現状の採算をきちんと合わせること。次の第二関門が、投資をしながら、経営者が目標とする売上を達成することである。コツを掴み、流れができたところで工夫が生まれ、費用削減に取り組めるようになる。これが第三関門となる。そして、利益の蓄積が投資した分を上回り、再生産・再投資に回るようになることを到着点として目指す。一年の成績を示す損益計算書は、その道筋を確認するものであるというわけだ。
売上がなければ、コストを削減しても意味はない。図1にお馴染みの損益計算書の捉え方を示す。何を今さらと思うかもしれないが、おさらいから始めたいと思う。
売上を高める要素は2つある。販売量(生産量)が増えるか、販売単価が上がるかである。そして、この2つの掛け算で売上高が決まる。
採算ラインとは、損と益の境目のことで、損益分岐点と呼ばれる。これは境目となる売上高を点として捉えることを示している。損益分岐点分析は損益計算書から作成できる分析手法の一つで、増益計画を練るときにも農業経営者の頭のトレーニングとして役立つ。経営者に限らず、損益計算書を読み解きたい人なら知っておくべきである。
では、損益分岐点分析について、例題を用いて導き方を解説していこう。図2・3にそれぞれのステップの図表を示したので合わせて見ていただきたい。
【STEP1:費用の分類】
現在、売上高が90万円、費用68万円、利益22万円であったとしよう。費用には、売上高に比例して増減する費用と、固定的に発生しあまり増減しない費用がある。採算ラインを捉える損益分岐点の分析では、費用削減策を見出すために、費用を変動費と、固定費に分類する作業が必須である。このように費用を分けて考えることを基本としている。
そこで、まず費用68万円を科目別に変動費と固定費に分けて整理する。ここでは種苗・肥料費などは農産物を収穫するまでに利用するため、固定費に分類した。一方、運賃や手数料などは、販売量に比例してかさむので変動費とした。
分類方法は会計的、数学的に経営の解説書などに紹介されているが、あまり難しく考えずに整理しよう。正確さは求められるが、固定費に相当する科目だけをざっくりと分け、変動費は費用合計から固定費を引く方法で求めてもかまわない。案分が必要な科目があれば、面積や労働などの比率で分けて整理してもよい。また、種苗・肥料費も面積に応じて増えるので、変動費にしてもかまわない。個々の経営で決めてよい。
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齊藤義崇 サイトウヨシタカ
1973年北海道生まれ。栗山町在住。昨年、普及指導員を退職し、実家の農業を2014年から営む。経営は和牛繁殖、施設園芸が主体。普及指導員時代は、主に水稲と農業経営を担当し、農業経営の支援に尽力した。主に農業法人の設立、経営試算ソフト「Hokkaido_Naviシステム」の開発、乾田直播の推進、水田輪作体系の確立などに携わる。
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