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特集

消費から見た日本農業の可能性


しかし、近代に入ると化学染料や中国産に押され、その影を潜めてきた。1970年代には一時、あるメーカーとの契約栽培が増え、82年にはベニバナは山形県の花に指定されたが、その契約の終了とともに生産量は激減した。
現在、山形県の村山・置賜地方を中心に栽培されている「最上紅花」も、そのほとんどが鑑賞用である。山形県紅花生産組合連合会(以下、連合会)では、染料や化粧品、茶や菓子などの食品用として紅餅や乱花を販売しているが、昨年度産の加工品取扱量は181kgのみにとどまる。
全国的に見ても、山形県のほか埼玉県や千葉県などで生産されているが、主に観光客の鑑賞用として栽培されているのみだ。

【本物志向の団塊世代の趣味としての需要が増加】

ところが後藤氏や連合会によると、5年ほど前からある客層からの国産ベニバナの需要が急速に高まっているという。
後藤氏のベニバナの作付面積は60a、収穫高は約25kgである。加工の技術を持っているため、染料用に一次加工した紅餅や菓子用の乱花を販売してきた。いまも生産量の一部は加工して昔なじみの製茶業や製麺業、連合会に出荷している。
後藤氏は、従来の販売方法を数年前から変えている。生産量の6割を収穫・加工せずに、圃場に摘みにきた地元の客に販売しているというのだ。きっかけは後藤自身がサクランボの作業と重なるため、収穫・加工の時間が取りにくいという事情があって「欲しかったら摘みにきてください」と圃場を開放したことだ。これに大きな反響があった。
圃場に来る客層のひとつは、これまで中国産を使っていたが、国産に切り替えることで商品にしたとき表示を『国産』にしたいという食品加工者である。
もうひとつ注目すべき客層は、伝統的な紅花染めを趣味としている個人客である。そのほとんどは団塊世代で畑を持たないサラリーマン家庭の主婦である。収穫期には、多いときで15~16人の女性たちがベニバナを摘んでいる光景が見られるという。
「自分で染色した反物で着物や小物をつくっているようです。そういうお客様は、地元山形県の特産品である本物のベニバナを使いたい、しかも自分で摘みたいと思っています」
ベニバナを摘ませてくれるというという噂が広まり、年々、圃場に訪れる客の人数は増えている。後藤氏にとっては、摘んだり加工したりする手間が要らず、生産に見合った収入が得られるので助かるという。
連合会にも個人客からの注文が増え、プロやセミプロの染色家や呉服屋からの引き合いも増えている。長い歴史と伝統文化を持つベニバナはいま、再び注目され始めている。後藤氏は、ベニバナを求める顧客は「本物志向」を持っていると考えている。

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