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資金収支を「寅」える
寅さんがまた失恋。戻ってきたと思ったら、また「とらや」から行商の旅に出た。東京から新潟へ移動、古本を仕入れ販売し、その日は夜行列車で移動。 駅弁とワンカップで一眠り。到着したのは青森で、神社参拝を律儀に行ない、縁日へ。知り合いからバナナを仕入れて一儲け。2日目は儲かったのを良いことに、旅館で芸者遊びをして散財する。
183日目に女性との出会いに気をよくした寅さんは、185日目に「とらや」へ到着。これをもって、この旅は終了した。この寅さんの行商の収支をまとめたのが、表1である。所持金2万円からスタートして、1万3000円で終わっている。
商売の儲けとは、本来、開業から廃業までの一区切りで考える。しかし、このように現金主義でその日暮らし、常に財布とにらめっこしながら生きる寅さん。この人を経営者と呼ぶ人はいない。こづかい帳すらつけないので、私生活にも当然、計画性はない。この表は私が気になったのでお節介に整理してあげたものである(笑)。
一方のタコ社長。寅さんが旅に出た日(1月7日)は、会社の初仕事の日。朝日印刷の決算期間は1月から始まる1年間なので、新たな営業年度の始まりである。昨年は不景気で業績がイマイチだったこの印刷会社も、この年はたくさんの仕事が舞い込んだ。6月末の上半期までに3000万円の売り上げがあり、ひろしにボーナスも弾んだ。今度寅さんが帰ってきたら、自慢してやろうと朝に夜に社員と働き、深夜まで女房と連携よく、経理、簿記仕分けもこなす。現金出納帳は手書きだったこの時代でも、しっかり記録しておくなどお手の物である。タコ社長はきっちりと上半期の経営成果を整理し、下半期の会社運営を暇があれば練っていたのだ。
寅さんへ。タコ社長は下町が生んだ、昭和27年創業の優秀な経営者である。この人をタコと呼んではいけない。私の経営診断では、安定性は抜群なのだから。
出入りのズレを知るために
くだらないフィクションと、山田洋次監督に怒られそうだが、この話から資金収支を捉える意義を示したい。
先に述べたとおり、経営活動とは、開業したときから、廃業をするまでがその期間である。寅さんの行商の場合は出かけた日から戻ってきた日までの185日間の区切りをもって事業・会計期間とし、儲けを算出するとわかりやすい。現金主義であれば、表1のような現金出納帳だけで十分だろう。しかし、実際の経営となると、どこかで区切らないと儲けがつかめないし、比較もできない。取引を複式簿記で仕訳したのちに元帳を作成し、正味の資金収支と資金のUP・DOWNを捉える。これらの帳簿は資金繰りに余裕がないときの、原因を分析する際に頼りになるはずだ(図1)。
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齊藤義崇 サイトウヨシタカ
1973年北海道生まれ。栗山町在住。昨年、普及指導員を退職し、実家の農業を2014年から営む。経営は和牛繁殖、施設園芸が主体。普及指導員時代は、主に水稲と農業経営を担当し、農業経営の支援に尽力した。主に農業法人の設立、経営試算ソフト「Hokkaido_Naviシステム」の開発、乾田直播の推進、水田輪作体系の確立などに携わる。
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