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TPPの豚肉への影響
オプション理論で解く
これ以上不毛な取材を続けても光明は開けない。読者、養豚業界人が知りたいのは本当の影響だ。筆者の独断で、TPP発効後の輸入価格の変化を予測してみた。豚肉ビジネスの将来を決めるのはビジネスパーソンである。彼らのロジックから考察すれば、自ずとその解は見いだせる。それは損得勘定である。そのための選択肢は二つに一つだ。「脱税を継続する場合」と「脱税をしない場合」のオプションである。
このオプション理論を詳細に示したのが表1(31頁参照)である。TPPによって差額関税が削減されるといっても、いまの脱税の常態化で支払っている関税(4.3%)よりずっと高い。現在の従量税(差額関税)は最大482円が発効年に125円、発効5年後に70円、10年後に50円となる。いずれも現在、支払われている関税23円よりずっと高く、発効10年後でも倍以上だ。一方の従価税のほうは5年後、いまの4.3%が2.2%、10年後ゼロ%となる。これらの制度変更を念頭にして、あなたが輸入業者だとしよう。損得勘定からどんな選択をするか。脱税しかない。要するに、10年間はいまと変わらないという結論になる。冒頭で引用した「関税50円はもはや撤廃と同じ」(週刊東洋経済15年12月12日号)などといった分析は甘すぎて論評にも値しない。
しかし、この理論に加味しなければならない変数が3つある。一つは財務省の行動だ。麻薬取締のように個々のコンテナを開けて、部位の識別を行なうぐらい検査を強化したとしよう。輸入業者は廃業となり、リスクが高すぎて新規参入も起きない。結果、輸入が減り、国産需要が高まる。ただし、TPP加盟国への工場移転はさらに加速するため、加工用途の需要は大幅に減る。これまでの財務省の対応からして、そこまで厳格化することはあまり考えられない。
もう一つの変数のほうがビジネス現場では重要である。脱税コストだ。脱税はただではない。大手の食肉メーカーは世間体から大っぴらに違法行為をしない。零細中小業者に託す。彼らにマージン(=脱税コスト)が残る形でだ。そうした業者も捕まりたくない。だから、ペーパーカンパニーを幾重にも迂回させ、逃れようとする。そこにもコストが発生する。問題は、脱税コストが1kg当たりいくらかかっているかだ。ディープな業界筋に聞いても正確な数字はそう簡単に表には出てこない。いえることは、財務省の取締強化で一部、そのコストは上昇傾向にあることで、現状、20円から30円といったところが業界相場といわれている。
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