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新年特別企画

私のこれからの経営(後編)


これは欧米と日本の市場との明確な違いを表しています。つまり、日本の食品市場は新しいものを受け入れる姿勢が高いのに対して、米国の食品市場は日本よりもはるかに保守的でなかなか新しいものを受け入れない市場なわけです。このような違いはそれぞれの国の農業のあり方にも大きな影響を与えてきました。米国の農産物生産においては(食べるものに変化が少ないから)価格における差別化が非常に重要であるのに対して、日本においては差別化や新規性が重要であったことを示しています。米国の農業においてはコストを安くすること以外にあまり差別化の余地が残されていないのに対して、日本の市場では新しい作物や差別化した作物の提案が非常に重要であるわけです。
しかし、このような市場の違いが農業のあり方に色濃く反映されているという分析をする農学者や農業の有識者は皆無でした。日本の過去の農学者たちは価格の重要性ばかりに注目し、差別化の必要性を指摘することはほとんどありませんでした。曰く、「日本農業は規模が小さいために国際競争力がない」とのことです。
日本の食品市場においてはもう一つとても重要なことがあります。それは、日本の消費者が味にうるさくおいしいものを好むのに対して、欧米では価格ほどの重要性はないという点です。簡単にいえば、日本では安くてもまずいものは売れないということであり、欧米市場ではまずくても価格が安ければ売れるということです。
したがって、日本の食品市場に特化した戦略を考えるにあたっては、「おいしく、かつ新規性や差別化された提案型食品の提供に徹すべし」という方針が見えてきます。この点においては日本の農業はこれまでおおむね正しい方向に進んできました。イチゴの「あまおう」やサクランボの「佐藤錦」、リンゴの「フジ」などを生み出してきた戦略は、日本の市場特性を考えれば納得がいく戦略です。もし、日本の市場において米国のように価格が他の形質を抑えて重要であったならば、このようにおいしいけれども価格の高い商品は決して陽の目を見ることはなかったでしょう。市場に接してきた農業者は賢明にも決して机上で農業をやる農学者の話をまともに受け取ったりはしてこなかったわけです。
しかし、いくらおいしいものであってもあまりに価格が高いのであれば消費の拡大は見込めませんから、生産性の向上も大切です。ここにおいては、欧米は徹底したコストダウンをして生産性の向上ばかりを追求してきたわけですので、彼らの技術を学習し、おいしくて新規性のある農産物生産において、生産性の追求を徹底して利幅を上げていくことがとても有効な戦略として考えられることでしょう。

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