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イベントレポート

各地の小さな動きがこれからの社会を創る/農村経営研究会2016年第1回定例会

農村経営研究会は4月15日、2016年第1回定例会を開催した。今回は建築家の徳田光弘氏が講師として招かれた。徳田氏は大学と現場を行き来しながら地域づくりの理論と実践を構築している。建築家の視点で考える地域づくりは農村経営にも示唆に富むものだった。
「過去、社会は戦争などの大きなできごとをきっかけに劇的に変わってきた。しかし、現代の社会の大変革は静かにやってくる」
こう徳田氏は述べた。つまり、社会が抱えるさまざまな問題は少しずつ静かに起きているということだ。そういった現代の成熟社会が直面している問題は、戦後の成長社会につくられたシステムに頼って解決しようとしても機能しない。地域活性化のために税金を投入して再開発事業を興しても利益が出ないということがその例だ。我々はまずそのことを認め、社会システム自体を変えなければならないと徳田氏は考えている。
では、どのように変えていけばいいのか。徳田氏は、理論よりも先に、まず小さなことをやってみることが重要だという。これからは誰にとっても未知の社会である。そんななかでは、上から与えられる理論によってではなく、下からわき起こった各地の小さな動きによって社会全体が創られていくと考えているからだ。そうやって積み上げられた経験値を体系化して学問にまとめる。つまり、現代に合った理論と方法をもう一度創り上げていくことは、徳田氏自身の使命だと考えているという。

地域にあるものを見つけ、
多様性を持って編集する

時代は、フロー(注1)型社会からストック(注2)型社会に移行していく。つまり、初期投資して利益を得るキャピタルゲインから、運用して利益を得るインカムゲインへ主流は移行していくと言われている。
徳田氏は、そのような時代の下での地域づくりには、「ないものねだりをして新たに何かをつくるのではなく、『あるもの』探しをして、それを『編集する』(注3)ことが必要だ」という仮説を持っている。
「あるもの」とは、地域がいままで育んできたヒト、コト、モノ、トキ、カネという地域固有のストックである。農業でいえば遊休地、建築の世界では空き家や空きビルなどの空き空間がそれに当たる。
「編集する」とは、誰に何をどのように届けるかということである。それによって何かが生まれ、ひいては三方良しにつながる。編集には多様性を持たせることが大切だと徳田氏は言う。たとえば、全国の商店街には同じチェーン店のドラッグストアや携帯ショップが並んでいるが、それでは地域の希少性はなくなってしまう。地域づくりには、地域によって異なること、その多様性を許容する姿勢も求められる。
徳田氏はこの視点を基に、リノベーションによる地域づくりと、欧州の辺境の地で見た地域づくりという二つの話題提供をした。

注1:経済諸量の発生と変化に価値を見いだし、生産を行なう。
注2:これまでの蓄積に価値を見いだし、利用を行なう。
注3:編集の例

徳田氏はある大型雑貨店で「編集」の試みをした。店内の通路に4色のテープを貼り、それぞれの線を「ご褒美路線」「ご家族路線」などの路線図に見立てた。すると、来店客の動きに変化が起きた。テープをたどって歩くことで、店舗をひとつの遊び場として楽しみ始めたという。「編集」を施したことによって既存の場所に別の価値が生まれた例である。

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