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新・農業経営者ルポ

農のテーマパークを世に問う 脱サラ「起業家」の冒険


この2軒のレストランからの紹介、Facebookでの情報発信、定期便ユーザーの口コミを通して、昨年秋以降、レストラン・個人とも顧客数が一気に増加した。創業2年目の16年度は初年度の2倍、年商2000万円を目指している。
5月には新たに佐伯勇を専従スタッフに加えた。佐伯はギニア出身の元駐日親善大使でタレントのオスマン・サンコンの長男で、東京から沼津出身の妻と三島市に移住。ギニアにある約5万坪の遊休地で「アフリカの人々に農業を営むための技術を伝承したい」という父の夢を実現しようと、開墾して有機農業に取り組んでいる農場を探していたところ、鈴木の存在を知ったという。
スタッフが増え、第1期の決算を終えたことから法人化を決断。会社のホームページも立ち上げ、情報発信力を強化する方針だ。
収益基盤である、二十四節気七十二候にちなんだ「七十二の季節を彩る定期便」は、1年間の実績を踏まえて内容を改善した。レストランからは、ジャガイモ、ニンジン、タマネギの三種の神器と葉物を切らさないこと、素材丸ごとでも料理できる小型の野菜を求めるニーズもあった。「300品種の栽培マネジメントが行き届き、スタッフの総力で思い描いた商品を表現できたとき」のうれしさは格別だと鈴木はいう。
また今期は「エディブルフラワーや食用菊が欲しい」といったレストランの個別リクエストに応える専用の畑を稼働させる。野菜の生育状況を画像で確認できるので足を運ぶ必要はないのだが、シェフが農場を訪れる機会はむしろ増えている。
雄大な富士をバックに、農の醍醐味を体感できるフードカルチャー・ルネサンスは、さらなる成長の可能性を秘めている。
たとえば、最大の現代病ともいわれる心の病だ。メンタル不調による休職や退職は企業の生産性を低下させるばかりか、医療保険財政を悪化させるなど社会的損失も大きい。企業の健保組合と提携し、土に触れるイベントを定期開催したり、野菜の販売チャネルとして活用できれば、組合員、企業、農場の三者にメリットがある。プラットフォームビジネスの発展形ともいえる。
行政の補助金を得て既存農業の末席に加えてもらうのが、いわゆる新規就農だ。一方、世の中に新たな価値を提供して顧客から対価を得るのが起業で、事業の成否は顧客が握っている。もっとも先達のいない起業という名の冒険に試練はつきもの。両手首の骨折をビジネスチャンスに変えた鈴木には、冒険を続ける資格がある。      (文中敬称略)

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