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特集

後継者よ、未来に志を継承せよ ~事業や地位、財産より大切なもの~



【事業構想を一人で
練り上げた創業者】

そんな先代は常務だったとはいえ、その地位に安住するつもりはなく、48歳で退職の道を選ぶ。50歳になる前に独立を志していたからだ。ここで和田も動いた。
「○○さん(先代)が辞めるんで、この会社には太陽がなくなりますので私も辞めます」
先代は影響力が相当強い人だったようだ。事実、和田だけではなく、退職者は複数に及んだという。そのうち、営業企画部の男性2人と和田は先代と4人で新会社を立ち上げて事業を始めることになった。
事業の構想はすべて先代の頭の中にあった。これまでの経験や公的機関の市場調査からコロッケの専門店を開くと決めると、個人的に視察へ出かけたり、商品開発を繰り返した。一方、和田を含め3人は先代のように料理に通じているわけではない。オープンまでの2、3カ月間の毎週土曜日に行なっていたミーティングでは、実験と称して男爵薯とメークインで作ったコロッケを食べ比べたり、調味料の選定に時間を費やした。機械的なオペレーション技術の習得ではなく、創業理念の共有というべきか、先代のコロッケづくりにかける情熱がそこに表れていた。
創業時からいまも受け継がれている「お客様との3つの約束」には先代のメッセージが色濃く反映されている。
(1) 添加物は一切使用しない
(2) 冷凍ではなく、チルド(低温冷蔵)の状態から揚げたものを提供する(一部商品を除く)
(3) 手作りを徹底する
ジャガイモは冷凍したら味が変わるため、チルド素材にこだわった。これまでのハンバーガーとは180度異なるコンセプトを押し出し、西郷亭は90年12月に開店した。
和田はそれから半年ほど、休憩時間になると喫茶店で眠い目をこすりながら、出版社や新聞社にせっせと手紙を書いた。
「前職では販売促進部でテレビCMやBGM制作、雑誌などのPRとかを補佐役で担当していましたので、マスメディアの絶対的な影響力と効果を信じていたんです。西郷亭が早く成長する一番の近道はマスメディアに取り上げてもらうことだなと確信して、そういう活動でコロッケを絶対売れるようにしようと思いました。『お客様との3つの約束』に代表される先代が立案した訴求ポイントもたくさんあったので、アピールするのもやりやすかったです。一般庶民のふりをして、『おいしいお店を見つけました』と投稿するんですけど、これが結構うまくいきました。先代は『どこかに取り上げられたら俺は100冊買うんだ』と豪語していましたけど、本当に掲載誌を100冊注文していろんなところに配ったなんてこともありました。そんな一面もある人でした」

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