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特集

後継者よ、未来に志を継承せよ ~事業や地位、財産より大切なもの~


農業のことなどよくわからないし、製造業のことだって2年ほど現場回りしていたくらいでまだ十分にわからない。しかし、定職に就いていなかったこともあり、ただただ好奇心に任せて動けたのだろう。鉄工所でパイプを削る深夜アルバイトをして生計を立てながら、群馬・埼玉・栃木の農業機械関連の会社を200軒以上、訪ね回った。
「こうゆう部品は作れるか?」
「これがなくて困ってるんだよ!」
一つひとつ要望をメモして、町工場にできることとできないことを整理していくなかで、現場の要望に応えるための協力工場を募った。多様な専門技術が必要で、一つの部品でも完成するまでには多くの工程を経なければならない。需要に臨機応変に応える体制を考えたら、協力工場は100社近くになっていた。
一方、パイプ削りの深夜アルバイトでは、工作機械が動いている2分間の待ち時間を利用して、自ら図面を描けるように力をつけた。CADを買うお金はなかったので、方眼紙に手書きで図面を描き始めた。描き方のわからない点を教えてくれたのは、町工場の人たちだった。
「農業と製造業の間にいる自分が図面を描ければ、現場のニーズを迅速に解決できることに気づいたんです。そうして農業現場からの相談を一つひとつ形にしていったところ、少しずつ仕事が増えていきました」
部品の注文を受け始めると、口コミで広がり、機械メーカーや製造元のメーカー系ディーラーからも直接依頼が入るようになった。これまでに注文を受けた案件は500件を超える。部品点数にすればその何倍にもなり、深夜アルバイトをしなくてもこの仕事一本で生活できるようになっていった。
「アラサー男子が、見知らぬ土地で夜な夜なパイプを削り、日中は農業の現場を回る。当然、うまくこなせるわけじゃなく何度もやり直す。そんな絶望しかねないような状況を楽しんで続けられたのは、部品を仕上げるたびに現場の農家やディーラーの皆さんがめちゃくちゃ喜んでくれたからです。感謝してもらえることがうれしくて、苦しさを感じることはありませんでした」

【農林業界にも製造業界にも
新しい動きを届けたい】

高垣が町工場を回り始めて7年が経った。これまでの経験と蓄積から、相談の質も変わり、遠方からの依頼も増えた。農林水産省や各地の農協、農業現場の人たちが視察に訪れるようにもなった。そのことに感謝する一方で、常に現場を見る目は冷静そのものだ。関心が集まることと関係なく、やればやるほど課題が見えてくる。

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