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左側の水槽には、もともと期首の総資本60万円に相当する貯水がある。その水槽に会計期間中に発生した収益100万円が流れ込み、費用として支払った80万円が水槽から流れ出た。これらの取引が行なわれると、期末には水槽にどれだけの水がたまっているだろうか。その答えは、右側の水槽が示すとおり、期末の資本80万円である。
左側と右側の水槽の水位差は20万円だが、これは会計期間に発生した利益を示す。見方を変えれば、水槽に流れ込んだ100万円と流れ出た80万円との差でもある。
このように水槽に流れ込んだり、水槽から流れ出たりする動きをフロー(取扱量)と呼ぶ。この内訳を示したものが損益計算書だ。また、水槽にたまっている水量が表しているのがストック(蓄積量)で、その内訳は期首・期末の貸借対照表に示される。借りたお金(負債)は水槽の上部に漂う泡で表現したが、これも大切なストックである。
財務2表をおさらいしたところで、本題に戻ろう。本稿のテーマである投資という観点で、この水槽を見てみたい。投資すると、この水槽のどこに影響を与えるのかが注目点だ。トラクターであれ土地であれ、資産を購入すれば、その代金は費用として水槽から流れ出る。つまり、水槽の貯水残量が十分にあるか、水槽への流れ込む水量を確保できるか、簡単に言えばこの2つのが投資の前提条件である。
経営の特徴と
投資チャンスの見極め
経営の特徴をつかむために作成した3つの事例(図3)から、投資の是非について考えてみよう。水槽にたまった水で自己資本を、その上部の泡で負債を表現してみた。図2では3つの水槽を描いたが、少し簡略化して、左側の水槽に期首のストックと会計期間中のフローをまとめ、右側に期末のストックを示した。
まず、比較するときのポイントを整理しておく。経営の大きさに相当する資本力は、ずばり水槽の大きさで把握できる。3つの経営指標は、次のように考えるとわかりやすい。
自己資本率は資産に占める自己資本の割合のことだから、左右それぞれの水槽に占める貯水量の割合で見る。水位が上がっていれば自己資本率は上がり、利益が発生したことがわかる。利益率と売上高負債率は、収益に対する利益あるいは負債の割合のことだ。蛇口から流入した水量に対して、どれだけ貯水量が増えたか、右側の水槽の泡がどれだけ残っているかを見ればよい。
では、個別に農場の特徴を見ていこう。A農場では入水量(収益)と同じだけの貯水量(資本)があり、水槽の貯水と泡(負債)のバランスが整っている。自己資本率は60%で、収益性、安定性とも良好であると判断できる。左右の水槽を比べると利益分だけ貯水量が増えている。
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齊藤義崇 サイトウヨシタカ
1973年北海道生まれ。栗山町在住。昨年、普及指導員を退職し、実家の農業を2014年から営む。経営は和牛繁殖、施設園芸が主体。普及指導員時代は、主に水稲と農業経営を担当し、農業経営の支援に尽力した。主に農業法人の設立、経営試算ソフト「Hokkaido_Naviシステム」の開発、乾田直播の推進、水田輪作体系の確立などに携わる。
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