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新・農業経営者ルポ

唯一無二の「熟成じゃがいも」

10kgの詰め合わせジャガイモが3900円(送料別)と聞けば、市場価格を知る者は高い、いや高すぎると思うに違いない。だが、そのジャガイモは売れに売れている。価格帯は異なるが、SSサイズも含めてだ。数量でいえば合計300tにもなる。北海道には「越冬ジャガイモ」というものがある。これを自然の産物とすれば、村上農場(上士幌町)の「熟成じゃがいも」は、自然枯凋の栽培をベースに、貯蔵時に味の変化を確かめながら品種ごとに最適な出荷時期を判定する、いわば作り込みの結晶だ。ひょんなことから始まった販売は、農場がつぶれそうな危機に直面することもあったものの、出会いが出会いを呼んでやがて大きく花開いていく。 文・撮影(6ページ)/永井佳史、写真提供/村上農場
8月初めの北海道といえば麦刈りがまだ終わっていない地域も残っていたりする。とくに今年は7月下旬の天候が悪かった。それだけに筆者にはこの時期の畑作地帯では取材を避けるべきという不文律がある。ただ、十勝は上士幌町の村上農場に限ってはおそらく問題がないだろうと思って連絡すると、やはり大丈夫だった。小麦を作っていないわけではない。実際、農場長の村上知之は取材当日も運搬作業に追われ、話を聞けたのは遅い昼食後の数十分に過ぎなかった。筆者がそれでもよしとしたのはメインの取材対象者で考えていたのが妻の智華だったからだ。知之の代わりという位置づけではないことをあらかじめ明記しておく。

畑に一緒に出ずにまかないを作る

「お久しぶりです」
智華と対面するのは2011年以来3回目になる。あいかわらず優しい口調で、その後の会話でも丁寧な言葉遣いにはほとほと感心させられる。夏を迎えても日焼けの跡はなさそうだ。彼女の出張や来客の日程と重ならなかったため、今回の取材が実現した。一般的な農家の妻という概念が当てはまらないのには訳がある。
知之と智華は1997年に結婚した。同年に経営移譲して3代目になる知之に対し、帯広市出身の智華は保育士として市内で勤務していた。
「私は農家の出ではないんですけど、嫁いだらどうしようという展望もなく、自分とこの農場との接点がどこなのかと探している期間が長かったかもしれないですね。ですから、畑で草取りをしたりということもほとんどありませんでした。救いは主人も義父母も自ら働くのが好きだったことです。お義母さんからは『まかないを作ってくれたら助かるわ』と役割を与えてもらいました」
まかないといっても家族分だけではない。パートタイマーも合わせると最大で何十人前にもなった。ここで智華は奮起する。適当に料理せず、日々勉強しながら懸命に取り組んだのだ。調理技術に加え、その真摯な姿勢は、後の販売業務に生かされていくことになる。

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