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成田重行流地域開発の戦略学

世界の果てから「世界の尾鷲」へ 三重県尾鷲市(下)

三重県尾鷲市を舞台とした群像物語の最終回は、成田重行さんが地域開発プロデューサーとしての任務を終えた後の話である。地域づくりに意欲を燃やした人々は、成田さんという後ろ盾がこの地を去った後でも、確かな歩みを続けてきていた。 文・写真/窪田新之助

「夢古道おわせ」を
見習った「おとと」

水産加工会社で地域一の規模を誇る尾鷲物産は2011年、「夢古道おわせ」の理念を見習って、JR尾鷲駅から徒歩10分ほどの場所に地場産品の直売所「おわせ お魚いちば おとと」(以下「おとと」)を新装開店した。
奥行のある広々とした店内に入ると、右手には主に地元で水揚げされたばかりの魚介類やその加工品を並べている。真っ先に目につくのは、つややかな銀肌のカツオ。カツオというと全国的には静岡や高知を思い浮かべる人が多いように感じるが、個人的には最も私が親しんだ紀州のカツオを忘れないでほしい。
そのほかのスペースには水産物に限らず一次産品やその加工品が種類も豊富に陳列している。なかでも多いのは干物。何列にもわたって干物コーナーがある。今回の旅程で何度か尾鷲港の付近を通ったが、どこもかしこも干物の加工会社である。晩御飯のおかずを探している主婦だけでなく、熊野街道を往来する観光客も、ここに来れば買い物に満足して帰れることだろう。
売店の奥には100人は収容できる「おわせ魚食堂」がある。ここのコンセプトは「おわせの魚をもっと気軽に食べてもらいたい」。鮮魚売り場に並んでいた魚をさばき、それを刺身や丼ぶりなどにして販売しているのだ。スタイルは、ショーケースに陳列されている魚介類や煮物などを取っていき、最後に代金を払って、テーブルに持っていくというもの。魚の炊き込みご飯「味飯」、「びんちょうまぐろの漬け丼」など尾鷲ならではの食べ物がふんだんにある。
店が扱っている魚は尾鷲漁港で毎朝競り落とすほか、尾鷲物産が養殖しているものも数多い。特筆したいのは、店を運営する尾鷲物産がマグロ漁船を所有していることだ。周知のとおり、尾鷲がある東紀州は黒潮の漁場となっている。かつてはマグロの水揚げも盛んだったが、いつしかはえ縄漁と巻き網漁も少なくなり、尾鷲港からマグロの姿は見えなくなった。そこで尾鷲物産は13年、「もう一度、尾鷲にまぐろを、活気のあるまちを」をモットーに「良栄丸」を造船したのだ。

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