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新・農業経営者ルポ

牛肉の価値観転換 美味しい赤身肉の牛を育てる

「日本の牛肉は赤身に旨味がない、ヨーロッパの肉は赤身が美味しい」。あるシェフから聞いたそのひとことにショックを受けた。静岡県浜松市で牧場を営む峯野忍が、赤身肉へと生産をシフトした瞬間だった。「高級牛肉=霜降り」というイメージはいまだ根強い。実際、高価格で取引されてもいる。日本では赤身肉の本当の美味しさが忘れられてしまった。あるいはまだ見出されていない。そんななかで一歩を踏み出した峯野の軌跡をたどる。 文・写真/紀平真理子、写真提供/峯野牧場
静岡県の浜松駅から車を走らせ、三方原の合戦と馬鈴薯で有名な台地を抜けると程なくして目の前に連なる山々が広がる。山に向かいさらに1時間弱ほど走らせたところに引佐町がある。
2005年、浜松市に浜北市、天竜市、舞阪町、雄踏町、細江町、引佐町、三ケ日町、春野町、佐久間町、水窪町、龍山村の12市町村が合併し、東西52km、南北73kmに及ぶ面積の新しい浜松市となった。この合併により浜松市の農業生産高も一気に全国で4位となった。
浜松市引佐町は約70%を林野が占める農村地域で、北東部の都田川、中央部の井伊谷川、南西部の神宮寺川が形成した扇状地や谷底平野にある集落である。静岡県内で日照時間が最も長く、山林から湧き出る天然水も豊富な自然に恵まれた環境である。
ここで5200平方mの中山間地を利用し、7つの牛舎、4つの堆肥舎で約260頭の肥育牛を一貫生産している峯野忍に話を聞いた。
祖父の時代はミカンの栽培をしていたが、1970年にJAからの勧めでミカンとの兼業で肉用牛3頭の飼育を始めた。そして現在は黒毛和牛とホルスタインの雌に和牛を交配した交雑種、計約260頭を肥育している。
牧場に到着すると、まず勾配の急な地形に驚く。坂の下にある「峯野牧場」と書かれた看板の前で、坂の途中にある事務所から出迎えてもらった。

借金返済のためには
続けるしかない

80年に4人兄弟の次男として誕生した峯野は、御歳36歳と若い。普通科高校を卒業し、家業を継ぐため農業大学へ進学した。友人も多く、楽しい学生生活を送っていた。そんな最中2001年9月に事件は起こった。BSE(狂牛病)の牛が確認されたのだ。主婦の買い控えが起き、同年10月以降販売価格が暴落した。
今まで15万円で購入した2カ月齢の子牛を7万円の固定費をかけ肥育、8カ月齢時に25万円で販売し、3万円の利益を得るという経営スタイルだったが、販売価格が下落してしまったため、売れば売るほど借金がかさんでしまうという悪循環に陥った。
峯野が02年に大学を卒業してすぐ実家を継ぐことになったのは、ちょうどそんな時期である。とにかくがむしゃらに朝から晩まで働いた。しかし06年、借入先金融機関から把握できただけで4500万円の借金があると聞かされる。「把握できただけ」というのは当時経費精算などどんぶり勘定をしていたためでもある。経費に家族の生活費などの人件費が含まれておらず、一見黒字に見えた。

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