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【Opinion】
21世紀の農業のあり方
- 農学博士、国際コンサルタント、SRU顧問 エリック川辺
- 2017年07月07日
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世界農業の動きと日本農業
現在、世界の農業は大きな転換期にあると思われるが、最近、酪農先進国を自認してきたニュージーランドでも同様な動きが目につく。まずはその現状に触れたい。
ニュージーランドは1年中、草が生育する、いわば草地酪農王国である。南島南部に位置するサウスランドは、これまで肉牛と羊地帯であったが、酪農に転換している。同島東部のカンタベリー平野についても、穀物の生産から灌漑による大規模酪農に移行した。
このような背景のなか、酪農家は乳生産拡大のために頭数を増やし、規模拡大に追われている。ストッキングレート(SR=面積当たり頭数)も最大限に追求され、草地は乾物生産性の高いライグラスが主流になった。草の生産量を上げるため、ha当たり200kgという尿素窒素の多用も一般化している。これは30年以前の酪農にはまれにしか見られなかった現象である。その結果、白クローバーが草地から消えていった。草地の粗蛋白(CP)は上昇し、ミネラル分のバランスの低下が生じるため、ミルクは出ても牛の健康や繁殖には適切とは言い難い酪農になってしまった。
NP肥料に過度に依存した農業は当然の帰結として環境汚染問題を引き起こす。その対策に大きな努力が払われているのが現状である。筆者は、ニュージーランドでミネラルのバランスを取ってマメ科草のある草地にすることと、N肥料を100kg/ha以下に減らすことを主張している。顧客のある酪農家はすでにその方向で動いているが、経営は安定している。
椰子油粕(PKE=パームカーネル エキストラクト)はこの10数年、輸入量が急速に増えてきた。SRを極度に高めることは、草地酪農では気象の変化、とくに干ばつ、低温による影響をまともに受ける経営となることを意味する。秋から冬、乳生産のピークを迎える春にも栄養の補給が必要となっていることがPKEの輸入増大の原因であるといえよう。しかし、PKEの多用の害が最近認められつつある。ミールなどを使用する傾向は酪農経営のなかで変動経費が増大する主因であり、施設費の増加とその返済、獣医費の増加などを含めて経営を苦しめる元となっている。
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エリック川辺 エリックカワベ
農学博士、国際コンサルタント、SRU顧問
1940年、東京都生まれ。東京農工大学卒業後、ニュージーランドのマッセイ大学院で草地管理学を専攻し、放牧の原理を追究する論文を執筆する。74年、ニュージーランド国籍取得。その後、ニュージーランドとオーストラリアで大規模草地農業の試験や実践、コンサルティングを20数年間行ない、牧場管理システムに関する10余年の研究論文をまとめ、日本大学で博士の学位を取得する。81年、オーストラリアでEric Kawabe & Associates社を設立。同国を中心にニュージーランドや南米など世界各国で「土-作物・牧草-牛」の生態系を基本とする改善や永続農業を目指すコンサルティング活動を続け、91年からはSRU(Soil Research Union=2017年現在北海道全域の農業者が加入する土壌研究組合)を十勝の6人の若い農業者で発足、北海道をメインに日本でのコンサルティングと永続農業科学の教育指導活動を拡大する。著書に『草地の生態系に基づく放牧と酪農経営』(デーリィマン社)などがある。なお、84年ごろから始めたオーストラリアのコンサルタントを組織するEco-Agコンサルタント協会の会長を20年近く務めたことに加え、日本でのSRUの指導や発展が認められ、2015年に開かれたBrookside Consultants Conferenceの大会で“Hall of Fame”(名誉)賞を受賞した。Brooksideは肥料・薬剤会社から完全に独立した世界最大の土、植物、他の分析所を持つ協会で、それを支持するコンサルタントが世界中で活動し、その大会が毎年アメリカで催されている。今回の受賞は協会の200人を超えるアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチンの独立系コンサルタントのなかから選ばれたもので、アジア、オセアニア地域では同氏が初の受賞者となった。現在ニュージーランド在住。
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