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【読み切り】
土を信じる者=創刊の辞に代えて
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 1993年05月01日
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北海道上富良野にある花の公園「フラワーランド」に一本の兪の木がある。
「フラワーランド」の中心、十勝連山を遠望する小高い丘に、農業者による新しい事業の創業にあたって、代表者の伊藤孝司氏が植樹したものである。
明治三〇年四月一二日に三重県出身の田中常次郎とその仲間たちが大木と笹の根の張る原野を入植の場と定め、おそらくたき火を囲みながら夢と希望と不安とが交錯する上富良野での第一夜をその下で過ごしたという楡の木に因んだものだ。先人たちによる苦闘の歴史を伝え、同時に伊藤氏自身の今を受け継ぐ者として己を律するための決意の記念樹でもある。
上富良野町は、入植三〇年後の大正一五年二月二四日、十勝岳の噴火による大災害に見舞われる。噴火の溶岩が溶かした雪は泥流となり、一瞬にして一四四人の命を奪い、開拓者の労苦をあざ笑うかのように八〇〇町歩の畑と五〇〇町歩の水田を、浅いところでも三〇cm、深い場所では二・五mもの深さに埋め込んでしまった。
開拓の志を挫かれ、農業を捨てて故郷に帰る人、あるいは新たな土地に移っていく人も少なくなかった。しかし、開拓の意志を継ぎ、再び未来を求めてモッコで山から土を運び、泥流に埋まった田畑に客土をする人びとがいた。そして、彼らは耕し続け、土を作り続けた。
この苦闘の歴史を、目の当たりにさせてくれる実物の証拠がある。
「フラワーランド」の中心、十勝連山を遠望する小高い丘に、農業者による新しい事業の創業にあたって、代表者の伊藤孝司氏が植樹したものである。
明治三〇年四月一二日に三重県出身の田中常次郎とその仲間たちが大木と笹の根の張る原野を入植の場と定め、おそらくたき火を囲みながら夢と希望と不安とが交錯する上富良野での第一夜をその下で過ごしたという楡の木に因んだものだ。先人たちによる苦闘の歴史を伝え、同時に伊藤氏自身の今を受け継ぐ者として己を律するための決意の記念樹でもある。
上富良野町は、入植三〇年後の大正一五年二月二四日、十勝岳の噴火による大災害に見舞われる。噴火の溶岩が溶かした雪は泥流となり、一瞬にして一四四人の命を奪い、開拓者の労苦をあざ笑うかのように八〇〇町歩の畑と五〇〇町歩の水田を、浅いところでも三〇cm、深い場所では二・五mもの深さに埋め込んでしまった。
開拓の志を挫かれ、農業を捨てて故郷に帰る人、あるいは新たな土地に移っていく人も少なくなかった。しかし、開拓の意志を継ぎ、再び未来を求めてモッコで山から土を運び、泥流に埋まった田畑に客土をする人びとがいた。そして、彼らは耕し続け、土を作り続けた。
この苦闘の歴史を、目の当たりにさせてくれる実物の証拠がある。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
土を信じる者=創刊の辞に代えて
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