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【江刺の稲】
”愚民政策”オンパレードの2009年衆院選
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第162回 2009年09月01日
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各メディアの事前調査が正しいとすれば、この雑誌がお手元に届く頃には、すでに民主党政権が成立しているのであろう。しかし、本誌は農業に関して言う限り、民主党に限らず自民党も、また他の政党も支持できない。どの政党も日本農業が進むべき未来を提示せず、相も変わらず農協組織を代表とする農業団体など農業関係者の既得権益におもねるばかりであるからだ。そして、その基本的スタンスは「愚民政策」。
愚民政策とは、国民に正しい情報を与えず、無知蒙昧な状態に置くことでその批判精神を奪い自らの支配的立場を維持しようという政策である。
ところが困ったことに、日本政界に存在する政党自身が、日本農業そしてほかの先進国農業の現在を正しく理解しようとすらしていない。
今回の選挙で各政党が掲げたマニフェストには判で押したかのように「食料自給率の向上」を掲げている。
農業を中心とする農業団体はもとより農水省の省益にもかなう“食料自給率向上”キャンペーンは、国民に“飢え”の不安を植え付け、それを煽ることで農業界の既得権益を守ることにすぎない。
本誌は、先進国たる我が国の農業や農村の発展のために、ことさらに食料自給率向上を叫ぶことが、いかに有害であるか、先進国が食料自給率の呪縛をどう克服してきたかを紹介してきた。
食料自給率論が世間の話題となったのは、平成17年に策定された「食料・農業・農村基本計画」の中に「食料自給率目標」が明記されたのがきっかけである。それは、基本計画を審議する食料・農業・農村政策審議会の答申を受けたものである。反対意見もあったが、農業生産者団体関係者の強い意向を受けて「新たな食料自給率目標を設定し、その向上に取り組むこと」と書き込まれたのである。
そもそも、食料供給の不安を問題にすべきなのは消費者であるはずなのに、生産者団体がそれを強く主張したのはなぜか。それは、国民の必要などではなく彼らの既得権益を守らんがためなのだ。しかも、それは日本の農業を担う農業経営者たちの成長発展に資するというより、農業関係者の居場所作りにとって有効だからだ。なぜなら、世界のどの先進国も問題にしないカロリーベースで自給率の向上を語ることで、コメの生産調整を代表とする農業政策に国民の支持を得ようとしているのだ。
かつてはWTO農業交渉の場で日本と共同歩調をとっていた韓国は、農業政策を根本から改めた。すでに米国やEUとのFTA、EPAを締結するまでに至っている。これまで日本の農業・農村の豊かさを保証してきた我が国の産業を左右するWTO交渉の場面でも日本は取り残され、その主張に耳を傾ける国はほとんどなくなっているのである。
今、政治がなすべきことは、利害団体の既得権益を守ることに汲々とすることではなく、可能性に満ちた日本農業の未来を実現するために農業にかかわる者に困難を乗り越えて立ち向かう励ましを与え、チャレンジを呼びかけ、そしてその工程表を示していくことではないのか。にもかかわらず農業で語られ続けることは、農業界に利権化された敗北主義を守ることにすぎないではないか。
愚民政策とは、国民に正しい情報を与えず、無知蒙昧な状態に置くことでその批判精神を奪い自らの支配的立場を維持しようという政策である。
ところが困ったことに、日本政界に存在する政党自身が、日本農業そしてほかの先進国農業の現在を正しく理解しようとすらしていない。
今回の選挙で各政党が掲げたマニフェストには判で押したかのように「食料自給率の向上」を掲げている。
農業を中心とする農業団体はもとより農水省の省益にもかなう“食料自給率向上”キャンペーンは、国民に“飢え”の不安を植え付け、それを煽ることで農業界の既得権益を守ることにすぎない。
本誌は、先進国たる我が国の農業や農村の発展のために、ことさらに食料自給率向上を叫ぶことが、いかに有害であるか、先進国が食料自給率の呪縛をどう克服してきたかを紹介してきた。
食料自給率論が世間の話題となったのは、平成17年に策定された「食料・農業・農村基本計画」の中に「食料自給率目標」が明記されたのがきっかけである。それは、基本計画を審議する食料・農業・農村政策審議会の答申を受けたものである。反対意見もあったが、農業生産者団体関係者の強い意向を受けて「新たな食料自給率目標を設定し、その向上に取り組むこと」と書き込まれたのである。
そもそも、食料供給の不安を問題にすべきなのは消費者であるはずなのに、生産者団体がそれを強く主張したのはなぜか。それは、国民の必要などではなく彼らの既得権益を守らんがためなのだ。しかも、それは日本の農業を担う農業経営者たちの成長発展に資するというより、農業関係者の居場所作りにとって有効だからだ。なぜなら、世界のどの先進国も問題にしないカロリーベースで自給率の向上を語ることで、コメの生産調整を代表とする農業政策に国民の支持を得ようとしているのだ。
かつてはWTO農業交渉の場で日本と共同歩調をとっていた韓国は、農業政策を根本から改めた。すでに米国やEUとのFTA、EPAを締結するまでに至っている。これまで日本の農業・農村の豊かさを保証してきた我が国の産業を左右するWTO交渉の場面でも日本は取り残され、その主張に耳を傾ける国はほとんどなくなっているのである。
今、政治がなすべきことは、利害団体の既得権益を守ることに汲々とすることではなく、可能性に満ちた日本農業の未来を実現するために農業にかかわる者に困難を乗り越えて立ち向かう励ましを与え、チャレンジを呼びかけ、そしてその工程表を示していくことではないのか。にもかかわらず農業で語られ続けることは、農業界に利権化された敗北主義を守ることにすぎないではないか。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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