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特集

増収こそ稲作経営の王道〜経営者よ、現状に甘んじることなかれ〜

民主党政権が実現したことで、これまでの農業政策が転換することが予想されている。そして戸別所得補償制度を導入する代償として、米価がより一層下落し、60kgあたり1万円を割り込む可能性も現実的になってきた。稲作経営者にとっては厳しい状況である。しかし、「ピンチはチャンス」の格言もあるように、イノベーションを起こすきっかけにもなるのではないか。今回は、低米価時代を迎えればこそ新たな意味を持つ“増収”について考えていく。稲作経営者に向けての特集ではあるが、他作目の経営者も自らの経営を見直す契機になればと思う。

「量」より「質」にとらわれすぎていないか? 

  10月30日に農水省が発表した平成21年産米の作況は98(10月15日付)でやや不良であった。総収穫量についても、全国平均で例年と比べて「やや不良」と予想し、主食用米の予想収穫量は、全体で831万1000t。読者の中にも今年の収量に納得できない方もいらっしゃるであろう。

 さて、今回の特集のテーマは、コメの増収である。本誌読者は、作目が何であれ、農業経営をことさらに特別視することなく、他業種の事業同様の経営感覚で取り組まなければならないと考えている方が多いはずである。そして持続的農業経営を確立するための原則は何かと、問われたら10人中9人が「増収増益」ときっと答えるだろう。しかし、稲作経営においては、増収によるコストダウン(増益)を考慮されることは少なかったように思う。

 たしかに、統計だけを見ると、国内のコメの需要は減り続けている。1961年には1人あたり約120kgだったのが、近年では60kgに半減した。食糧供給が安定し、社会の論理も欠乏から過剰へ推移した。その厳然たる事実をもってすれば、稲作経営者は多収を志向せず、良食味をあくまで追求するのも悪くないかのようにも思われる。69年以降、過剰相当分の作付けを禁じられた生産調整が行なわれたこともあって、農村社会内にコメの増収をタブー視する“空気”が漂っていたせいもあったのも、その一因といえるだろう。

 しかし、増収増益は農業に限らず、あらゆる経営の王道なのである。今一度問い直してほしい。良食味と収量は、相反するものと勝手に決め込んでいなかっただろうか? より多くの人に自分の作ったコメを届けたい、喜んでもらいたいという食の供給者としての素朴な喜びを忘れてしまっていなかっただろうか? そして土に生きる者として、土の力を軽んじていなかっただろうか? 規制改革によって産地品種銘柄指定要件も緩和され、コメの作り手がブランドにもなりえるようになった。減反面積を拡大するという矛盾を引き起こすためにこれまでに省みられなかった、反収を増やすコメの新品種も誕生しつつある。もちろん経営は多様であり、増収こそが絶対に正しいとはいえない。だが、民主党政権下で農政が転換し、稲作経営のあり方が変貌を遂げる可能性がある中で、あらためて増収の意味を考える必要があろう。

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