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江刺の稲

不作の中でニヤリと笑える経営者

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第166回 2010年01月01日

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 2009年の北海道では、エゾ梅雨といわれるほどの雨と日照不足が続いた。麦もジャガイモもビートもコメも、あらゆる作物が不作だ。でも、そんな条件下でも確実に平年作を確保する人々がいる。例えば、空知地方栗山町の勝部征矢氏である。同氏は平年では栗山の平均的な反収が350o程度の中で、常に600kgを越える収量を得ている。十勝や網走地域の平年であれば、もっと収量の多い人も少なくはない。でも、土壌や気象条件も劣る空知での収量と品質、それも百数十haの作付けの平均の収量である。この40年以上麦を連作しているにもかかわらず、毎年トップの収量を維持しているのだ。

 勝部氏に、2月10~11日に開催される読者の会全国大会(大会テーマ=未来のための原点回帰)での講師をお願いすべく、電話で話をうかがった。09年は数十年ぶりに大豆を35ha作付けしたため、麦の面積は約120ha。その平均反収は600kgだ。09年の地域の平均は聞きそびれたが、勝部農場がダントツのトップあることは想像に難くない。しかも同年の場合、一等の評価を得ているのは周辺四町村で勝部氏ただ一人なのである。ちなみに35haで作った大豆も反収4.5俵だった。大豆の播種と刈り取り作業は、長沼町の宮井能雅氏(ヒール宮井)に頼んでやってもらった。宮井氏に聞くと、彼の場合も麦の収量では600kgを取ったものの、等級は2等だったと悔しがっていた。でも、同地域の麦の多くが2等どころか等外になっている場合がほとんどなのだ。勝部氏や宮井氏とほかの人々との収量差の理由とは何なのだろうか。

 94年1月発行の本誌季刊第4号で「不作の後に問い直す田作り・土作り」というテーマで特集をしている。そして、大冷害といわれた93年の不作について、その原因を単に天候条件ばかりではなく「人災」の側面はないだろうかと問うた。

 93年の秋に、冷害で収穫皆無といわれるような地域の読者を訪ねた時も、その中に平年作に近い収量を上げている人々がいた。

 それを思い出しながら勝部氏に話を振ってみると、「天災ではないよ、人災だよ」との答え。不測の事態が生じることをあらかじめ勘定に入れて準備を整えるのが農業の仕事。そのリスク管理のできる人が成功するのであり、それをしないのは人災だというわけだ。

 同氏の畑の地下には大きな暗渠が張り巡らされており、また様々な土壌管理をはじめ、まさに不測の事態に備えた経営をしている。09年のような年であれば、いつもの年以上に防除を徹底する。でも、多くの人々はぬかるんでいて畑にトラクタが入れられなかったとぼやくだろう。でも、勝部農場なら大雨の後でもすぐに畑に入ることのできる圃場管理がなされており、であればこその防除の徹底が可能になるのだ。

 先日、ニュージーランド在住のコンサルタント、Dr.エリック川辺氏に指導を仰ぐ北海道の農業経営者グループSRU(Soil Research Union)のメンバーの皆さんの勉強会に参加させていただいた。普及所や農協の権威ある「先生」の指導に無疑問に従うのではなく、あくまで科学的根拠に基づく施肥を確実に行なっている人々も、やはり優れた収量を得ていた。

 全国大会では勝部氏のほか、新潟県の稲作経営者平野廣明氏らを招いた勉強会なども企画している。読者の皆様のご参加をお持ちしている。

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