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視点

種イモの自家生産を目指して


 今春、北海道のある農協から種イモ200kgを購入したが、袋を開けて愕然とした。約10%が腐っており、種イモとして使えない状態だったのである。普通の商売であれば、腐った商品を割引もなしに販売することは考えられない。私が販売する加工用ジャガイモは1kg31円だが、この種イモは1kg100円以上もする。苦情を申し立てたが、受け入れられなかった。


マイクロチュバーで種イモを生産

 ジャガイモは植物防疫法の指定種苗になっており、未検査の種イモを流通させることは禁じられている。また、種イモの多くは一般消費者にではなく、農家から農家に販売されるため、品質などの改善を求める声が反映されにくいのが現状だ。

 そこで注目したのが、マイクロチューバー(以下、MT)による種イモの確保である。MTとはジャガイモの生長点を組織培養し、無菌状態で生産する塊茎のことである。指先ほどの小さな塊茎だが、2~3回増殖を繰り返すことで立派な種イモになる。MTは屋内で大量増殖できるため、新品種の普及を早めるためにも都合がよく、海外では導入が進んでいる。

 もちろん、MTから増殖させたものであっても、国内では登録業者でない限り種イモとして販売することはできない。しかしMTから種イモを自家生産し、それをもとにつくったジャガイモを加工原料として出荷する場合は、植物防疫法に抵触しない。初期生育の不安定さが指摘されることもあるが、経営上のトータルコストを削減し、生産者が自己責任のもとで種イモの病気やサイズを管理できるメリットは大きい。

 わが農場では、2005年から3年間にわたって北海道大学関係者の協力をいただき、MTの実証試験を行なった。技術面での手ごたえも感じ、あとはMTを安定的に供給してくれるパートナーを確保するだけであった。ところが最近、国内で唯一MTによるジャガイモの原々種生産を行なっていた民間会社が、MTの供給をストップしてしまった。せっかく有効な技術であるにもかかわらず、国内の生産現場でそれを利用できないというのは非常に残念だ。

 農業試験場の関係者にMTの話を持ちかけると、大抵の人が困った顔をする。原種農場や種イモ農家の立場を思えばその気持ちも理解できるが、農業経営者が種苗の調達方法を選択できる自由があってもいいのではないだろうか。現状の種イモ供給の流れと、MTによる自家生産の流れがあれば、一部の専業農家は自らの責任において種イモの自家生産に取り組むことだろう。

 今後、もし新たにMTの生産に取り組む企業が現れれば、是非パートナーシップを組みたいと考えている。(まとめ・土井 学)

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