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新・農業経営者ルポ

糖度計を捨てて美味しいみかんを作ろう

  • (有)柑香園(観音山フルーツガーデン) 代表取締役 児玉典男
  • 第72回 2010年04月28日

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 「私の考える国際化とは、市場を海外に求めることだけではありません。英会話を学ぶことで、閉鎖的な農村社会の中で国際的な文化を吸収し、自由な発想で農業経営を見直すことを意味しています」

 その結果、農協や任意出荷団体には頼らず、自ら開拓した取引先に直接販売する経営スタイルを作り上げていった。

 一方「情報化」の取組みとしては、10年前からネット販売のためのホームページを開設し、1日1000人のアクセス数を誇るウェブショップへと成長させている。メールや手紙で伝えられる顧客の声に耳を傾けることで、実際に食べる人のニーズを詳細に把握できるようになった。みかんの消費量がピーク時の4分の1程度にまで減少する中、自由な発想とIT技術を身に付けることで、逆に売上を伸ばしてきたのである。


糖度計も除草剤もいらない

 耳を傾けるのは取引先の声だけに留まらない。出会いがある時には必ず名刺を渡して観音山フルーツガーデンのことを熱く語る。そして、今どんな果物が食べたいのかを聞き出すことを怠らない。

 「先日、夫婦で北海道旅行に出かけた時も、3日で60人と話しました」

 今では人気商品の一つとなっている夏みかんも、東京に出かけた時、偶然乗ったタクシーの運転手との雑談から生まれたものだ。昔のような酸っぱいけど美味しい夏みかんが食べたいという話を聞いて、早速作ってみることにした。

 柑橘類を取扱う農協の集荷場担当者や仲買人たちは、単純に糖度計の数字だけで判断して商品を選別してきた。しかし、柑橘類の味覚は非常に複雑なものである。糖度には果糖、ショ糖、ブドウ糖が関係していて、酸っぱさにはアミノ酸やクエン酸などが関係している。その組合せによって、糖度計では測れない人間の微妙な味覚が果物の美味しさを生み出している。観音山恒例のお客様感謝祭での試食会では、糖度計で高い数字が示されたみかんが全く評価されないことも目の当たりにした。

 「糖度10度でもとろけるように美味しいみかんもある。逆に糖度13度でも水っぽいみかんもあります」

 糖度至上主義は、農家や流通過程の関係者が売りやすくするために勝手に作り上げた幻想だったのだ。

 「農家や出荷団体の糖度へのこだわりが、食べる人のみかん離れを助長している、と確信しています」

 もうひとつ、大事な技術がある。“打ち痛み”をなくすことだ。柑橘類は衝撃を与えると味にエグミが出てしまう。これを“打ち痛み”と呼ぶ。収穫した時、どんなに美味しいみかんでも、乱暴に扱えばまずくなってしまう。原因は収穫から選果、パッキング、発送のすべてのステージで起きるみかんへのショックだ。

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