ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

新・農業経営者ルポ

糖度計を捨てて美味しいみかんを作ろう

  • (有)柑香園(観音山フルーツガーデン) 代表取締役 児玉典男
  • 第72回 2010年04月28日

  • この記事をPDFで読む
    • 無料会員
    • ゴールド
    • 雑誌購読
    • プラチナ

 典男はみかんが収穫されてから出荷されるまでに、ショックを受ける場面を徹底的に洗い出した。収穫時にハサミ採りして籠に入れる時、籠からコンテナに入れる時、自家選果時にボックスにあける時、ブラシ研磨による摩擦時、選果ライン上での果実同士の衝突、選果機からコンテナに落とす時、選果場でボックスにあける時などなど。そして、徹底的にそれをなくすように、収穫後のオペレーションを組んでいる。

 一般的に農家は収穫の能率を上げるために、1日にできるだけ多く収穫しようとする。10年以上前、卸売市場へ直接出荷していた時期には、1日1人700~800kgが普通だった。しかし、現在は糖度計がわりに1本1本試食して収穫する。味で合格した木を飛び飛びに収穫するので、同じ園地を何度も収穫する場合もある。また、みかんにショックを与えないように籠の底まで手で入れるので能率は悪く、400kgがせいぜいだ。それでも収穫してもらうパートさんに、典男は収穫量のノルマを課さない。それがブランドを守ることであり、最優先課題なのである。観音山フルーツガーデンでは、果実をまるで「卵を扱うように」丁寧に箱詰めして、最短距離で輸送することで美味しさを保っている。

 栽培について聞くと、特別なことはしていないという。しかし園地を歩いてみると、やはり様々なこだわりがあった。肥料は自家製堆肥のほか、有機肥料に重きをおいている。10aの堆肥製造場では鶏糞、牛糞、木屑、草等を積んで、2週間に1回切り返して空気を入れ完全発酵させている。肥料は魚粉、米ヌカ、豆腐粉など有機物を中心に施肥している。ただし気象が不順の年は、樹勢回復のため化学肥料を一部使用することもある。

 雑草対策としては、土壌に影響の少ない冬期に除草剤をスポット散布する程度で、草生栽培を実践している。春草は秋に芽を出して冬から春にかけて地面一面を覆うが6月上旬には自然に倒れて、中旬には枯れてしまう。敷きワラ状態になった春草が地表を覆ってくれるため、一番厄介な夏場に猛威を振るう雑草を抑える働きをしてくれるのだ。

 だから春から初夏までは、一見すると放任園と勘違いされるほど草が生える。自然の摂理をうまく取り入れた雑草対策なのだ。4月中旬の取材時も草ぼうぼうの状態に驚いたが、話を聞いて納得した。草刈りの手間を軽減するだけでなく、表層の土壌浸食を防止し、土壌の高温化を防ぐ。そのことが土壌中のミミズなどの益虫を守り、害虫を含めて生態系を維持するため、農薬の少散布が可能となっている。また、干ばつに強い果樹園になる効果も期待できる。さらに草の根によって土壌物理性が改善され、腐植源として有機物が補給されるという側面もある。

関連記事

powered by weblio