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【農水捏造 食料自給率向上の罠】
ロシアの小麦増産は「日本の食糧安全保障の脅威」(農水省食糧部)ではない
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第22回 2010年06月30日
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前号で、10年後にはロシアが米国を抜き「“世界一の小麦輸出大国”になる」見通し(米国農務省)を紹介した。ロシアの小麦輸出市場のプレゼンが高まるなか、農水省は、「ロシアが小麦の輸出規制をすれば日本の食料安全保障の脅威となり、世界にとっても国際相場を押し上げる圧力になる」(同省食糧部)とのロシア脅威論を展開してきた。
しかし、事実は異なる。そもそも日本はロシアからほとんど小麦を輸入していない。つまり、現状では、脅威になりようがない。輸入していないのは単純に、ロシア産の品質が日本のメーカーが求めるレベルに達しておらず、供給もこれまで不安定だったからにすぎない。「相場を押し上げる」との見方も、世界の穀物専門家の見解と大きく異なる。「ロシア・ウクライナの増産と輸出拡大により、2006年から08年の価格高騰で顕在化した世界の食糧安全保障に対する懸念は相当緩和されている」がほぼ共通した意見だ。
現在、先月号でもみたとおり、両国の輸出マーケットにおける急速なシェアの高まりをひとつのきっかけに小麦在庫は過剰で推移しており、国際相場が大幅に下がってきている。日本にとっても、輸入していないとはいえ、ロシア・ウクライナという新たな調達先が登場したことは歓迎すべきではあっても、脅威論を振りまく理由にはならないだろう。
自給率向上政策の問題のひとつは、国策にした以上、それを正当化する根拠を毎年“作り出さなければならない”矛盾に直面することだ。このロシア産小麦のケースのように、事実に反したとしてもだ。それ以前に、ロシアの小麦の輸出規制を警戒しながら、農水省は一貫して、小麦の世界最高水準の高関税(250%)と国家貿易を維持してきた。価格高騰時のロシアの輸出関税40%(後に通常の10%に引き下げ)の5倍以上の輸入規制をしているのだ。
現実は刻々と動いている。ロシアの穀物商社は日本への小麦売り込みをかけて投資を促進中だ。「日本の品質と価格基準を満たすため、日本海に面した港での穀物設備に1億ドルの投資を行う。数年で日本への小麦輸出量を100万トンにしたい」(穀物商社ユナイティッド・グレイン社社長)と意気込む。現在、シベリア産小麦の輸出は100万トンに満たないが、将来的には500万トンまで増産できる余力はあるという。すでに日本の数社と交渉に入っている。昨年には、丸紅がソ連の解体後初めてロシアから飼料用小麦を輸入した。まだ日本の需要の2%に過ぎないが、「3年後に飼料用小麦を年40万トン輸入する計画」もある。双日はロシア穀物協会とアジア市場でのロシア小麦の販売促進に向けた戦略的パートナーシップ契約を締結。伊藤忠商事も極東ロシアでの輸出拠点づくりに向けて動いている。
農水省のいうようにロシア・ウクライナが日本の脅威になりえるのか、さらに詳細にみていこう。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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