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視点

口蹄疫の教訓をどう生かすべきか

 宮崎県で発生した口蹄疫は伝播力が極めて高く、世界中で怖れられている家畜のウィルス感染症である。海外でも発生しているが、甚大な被害が出たことで知られるのが2001年の英国の事例である。この時は600万頭もの家畜が処分され、世界的に衝撃を与えた。私はその年に英国を訪れたが、当時のパニックの様子は忘れがたい。地域社会はもちろん産業自体が壊滅的打撃を受け、それと同時に精神的な社会不安が起きていた。

 宮崎県で発生した口蹄疫は伝播力が極めて高く、世界中で怖れられている家畜のウィルス感染症である。海外でも発生しているが、甚大な被害が出たことで知られるのが2001年の英国の事例である。この時は600万頭もの家畜が処分され、世界的に衝撃を与えた。私はその年に英国を訪れたが、当時のパニックの様子は忘れがたい。地域社会はもちろん産業自体が壊滅的打撃を受け、それと同時に精神的な社会不安が起きていた。

 今回の宮崎県での発生事例では、少ない現地報道からも畜産農家の生々しい苦悩が伝わってくる。全国各地の畜産農家や自治体も、固唾を飲んでその成り行きを見守っている。国際社会から清浄国と認められるまでの道のりは決して易しいものではない。


農業者自ら危機管理の意識を

 今回の問題で不幸だった点として、国と地方の権限が曖昧だったことが挙げられよう。国と宮崎県との間で、情報管理のあり方にギャップがあったのではないだろうか。現場の情報がリアルタイムで為政者に伝わっていたのか、疑問が残る。

 2001年に英国で口蹄疫が流行した際、その翌年にはレポートがまとまり、諸先進国はそれを教訓に様々な対策を講じた。その根底には、口蹄疫は畜産業だけの問題ではなく、国家の危機管理に関わる問題だという認識がある。米国では現場の情報がすぐさま国に伝わるシステムが構築されている。残念ながら日本は、10年前に同じ宮崎県で起きた口蹄疫発生の経験も、英国の教訓も生かすことなく、今回の発生を迎えたことになる。

 これから大事なことは、今回の教訓をどのように生かし、危機管理のシステムを組み立てていくかである。第三者の検討委員会を作って対策を講じ、アジア諸国の模範となる監視システムを作りあげるべきであろう。口蹄疫は中国や韓国でも発生しているのである。近隣諸国と問題意識を共有しない限り、現代のグローバル社会のもとでは、第二第三の流行を防ぐことはできない。

 投資と長年の努力で築き上げてきた畜産経営者にとっては、確かに今回の状況は悪夢のようなものであろう。農家が被害者という側面もあるが、これからは自分たちが地域の危機管理を担う重要なプレイヤーであることを日頃から認識しなければならない。いざとなれば国や県がやってくれるだろうではなく、現場にいる農業者自身が絶えず情報を発信すべきである。行政よりも先んじて危機管理の重要性を訴え、ロビー活動を展開するのも手段のひとつであろう。またいつ発生するかもしれない感染症対策に終わりはない。農業経営者が地域の産業人として社会を再建し、早く立ち直ることを期待している。 (まとめ・土井学)

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