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編集長インタビュー

味の画一化が進む現代だからこそ 自らを相対化した価値に気付こう

成分や香り、舌触りや噛み応えなどのテクスチャーを数値化することで、食品のおいしさを評価している「おいしさの科学研究所」。同研究所を設立し、理事長を務める山野善正氏は、日本人の安全に対する判断力の衰えと、味覚の画一化に警鐘を鳴らす一方、従来の絶対評価とは異なるアプローチで、食品の特徴を測定している。本来、日本の食文化には多様な価値観があることを尊重する山野氏に、おいしさをめぐるこれからの農業・食品産業のゆくえについて聞いた。

科学の目でとらえる食べ物のおいしさとは?

昆吉則(本誌編集長) 山野さんは2003年に「おいしさの科学研究所」を立ち上げて以来、おいしさについての研究や評価、それらのデータを基にしたコンサルティング事業に取り組んでいると聞いています。本誌の読者も、自ら生産する農産物の味には高い関心を持っています。ひと言に「おいしさ」といっても様々な要素があると思いますが、科学の目ではどのようにとらえているのですか?

山野善正(おいしさの科学研究所理事長) おっしゃる通り、おいしさには様々な要素があります。ひとつは生理的に必要な栄養を摂るということ、つまり生命を維持するために感じるおいしさですね。諸説ありますが、たとえば甘みのもとになる糖類はエネルギーの源であり、血糖値の維持に役立ちます。赤ちゃんでも甘みを好むことがわかっています。こうしたおいしさは動物にも共通するものですが、人間の場合はそれ以外にも文化や情報、薬理的な要素でもおいしさを感じるんですよ。

昆 と言いますと?

山野 たとえばCMで有名人が「これはおいしいビールだ!」と言えば、それはおいしく感じる情報となりますよね。あるいは運動やお風呂の後にビールを飲むと爽快感を感じます。こうした「人間らしい」おいしさのために、メタボのような問題が出てくるわけです。野生動物にメタボなんてありませんが、人間はおいしいとつい食べ過ぎてしまうでしょう? そういう悪い面もありますが、うまくコントロールできれば、人間にとっておいしさとは非常に幸せなものなんです。

昆 なるほど。おいしさを構成する味にはどんなものがあるんですか?

山野 ドイツのヘニングという心理学者が、世界共通の基本味として、甘味、塩味、苦味、酸味を提唱しました。この4つが基本味といわれてきましたが、醗酵食品をよく食べる東洋では、これらとは異なる「うま味」が多い。1908年に日本でグルタミン酸が発見され、その翌年に味の素が商品化されたことは有名です。それ以後、うま味を加えた5つの基本味があるといわれています。

昆 うま味をまったく持たない食文化もあるんですか?

山野 地域によって、ある特定の味覚を感じにくいケースはありますよ。逆に5つの基本味以外の味もあるんです。たとえばヨーロッパだったら日常的に硬水を摂取しているから、金属味やアルカリ味を感じます。それは日本人の味覚ではあまり感じられませんよね。逆に日本人は渋味や苦味などに敏感です。

昆 たとえば春にフキノトウを食べると、あのエグミというか苦味といいましょうか、あれを含めて我われはうまいと思うわけですよね。

山野 ええ。これも人間ならではの味覚ですね。苦味は忌避物質ですから野生動物はほとんど食べません。詳しいことは不明ですが、なんらかの機能性があって、それを人間は本能的に感じているのかもしれません。

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