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江刺の稲

耕作放棄地で4兆円の産業を創出

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第177回 2010年12月08日

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2010年のセンサスによれば、耕作放棄地は39万6000haあるという。計算しやすいように40万haとして、こんな試算をしてみた。耕作放棄地をすべて貸し農園用に貸し出してみたら、いくらになるかという計算である。

2010年のセンサスによれば、耕作放棄地は39万6000haあるという。計算しやすいように40万haとして、こんな試算をしてみた。耕作放棄地をすべて貸し農園用に貸し出してみたら、いくらになるかという計算である。

貸し農園の区画は10×5m(50平方メートル=5a)で、それを1区画年間5000円で貸す。1haは100×100mだから1万平方メートル。50平方メートルなら200区画が取れる勘定になる。それに5000円を掛けると、1haの売上は100万円。これを40万倍すると、4000億円になる。

ただ、貸すだけというのは、農業・農村の持つ経営資源を付加価値なしに切り売りしているだけ。それでは農地法にも抵触する。そこで、知恵のある農業経営者たちが考え出したのが「体験農園」という経営形態だ。

種苗や肥料などの資材費は農家持ちで、体験農園の会員は農家のお手伝いをして、会費分だけできた農産物を購入する。何を作るかは、会員の要望を聞きながら農家が決めるというのが建前だ。それで農地法はクリアできる。でも、農場の横に駐車場を作ろうとすると、農地法の制約を受けるそうだ。こうした体験農園の年会費は3~5万円程度。

40万haをすべて5万円会費の体験農園にしたとしたら、1haで1000万円。その総売上は4兆円である。わが国の農業総生産額が約8兆円だから、その約半分の売上になってしまう。家庭菜園ブームや直売所の人気とは、現代人の農業や風土に対する希求の表れである。風土や農業に関する知識を持った優れた農家が、その知識と経験を生かして伝え、さらに人々が農業・農村に抱く憧れに応える条件を整備すれば、農業・農村はまさに時代が求める新産業のフィールドたり得るわけだ。

ところで、農地の所有を農地法的に許されている総農家数と土地持ち非農家の合計を日本の総世帯数で割ると、その比率は1%にも満たない。これは不平等というべきだ。さらに、全国の耕作放棄地面積の68.7%は自給的農家および土地持ち非農家の所有地である。その人々だけでは、有効な事業プラン創出や事業を発展させることはできないのではないだろうか。同時に、地元企業が自治体と一緒に社員向けの家庭菜園を作るのでより高い地代を取れるからと、貸し剥がしに遭ったという話もあるので調整も必要だ。

農水省は直接的な耕作放棄地解消対策予算だけでも、2009年度に627億円を計上している。先日、テレビ番組で同席した篠原孝副農相は、「貿易自由化を語るだけでなく、日本は日本としての国のありようを考える必要がある」と述べ、菜の花が一面に広がる農村の姿を懐かしがっていた。僕も日本には日本なりの国の形があるべきだと考える。しかし、菜の花が一面に咲く農村風景を取り戻すのに、税金を使い、役人たちの居場所を作る必要などないのだ。さらに、貿易自由化で荒廃すると篠原副農相が語る中山間地こそ、農業・農村エンターテインメントの適地といえる。農地が里山に囲まれ、多様な自然景観がある分、中山間地は平場より恵まれた経営条件というべきなのだ。

さらに、それを果たし得る農業経営者たちが、観光業や交通、運輸、通信などの事業者と出会い、ビジネスセンスと資本と人材面の協力を得ることができれば、より収益の上がる産業が育ち、雇用の創造にもつながる。肝心なことは、農業・農村を役人の世界から解放することなのである。

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