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江刺の稲

精神の鎖国から解放されよう

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第178回 2010年12月28日

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ゼスプリ・ゴールドとピンクレディーを裏返すと、鎖国してきた日本農業の姿が見える。ゼスプリとはニュージーランドのキウイ生産販売会社であり、同社のゼスプリ・ゴールドという品種が日本で品種登録され、愛媛や佐賀の農家で契約栽培されている。一方、ピンクレディーは西豪州の州政府試験場が育種したリンゴの品種で、欧米諸国で人気のあるブランドである。日本でもリンゴ生産者たちが設立した日本ピンクレディー協会が作られており、彼らがパテント管理を行なっている。

ゼスプリ・ゴールドとピンクレディーを裏返すと、鎖国してきた日本農業の姿が見える。ゼスプリとはニュージーランドのキウイ生産販売会社であり、同社のゼスプリ・ゴールドという品種が日本で品種登録され、愛媛や佐賀の農家で契約栽培されている。一方、ピンクレディーは西豪州の州政府試験場が育種したリンゴの品種で、欧米諸国で人気のあるブランドである。日本でもリンゴ生産者たちが設立した日本ピンクレディー協会が作られており、彼らがパテント管理を行なっている。

現在、ゼスプリのキウイを契約栽培している愛媛といえば、かつて柑橘類の自由化を声高に反対していた。世界中で日本の柑橘類は栽培されているが、日本人ブランドで海外生産されている例はどれだけあるのだろう。

リンゴのふじも同じである。現在、ふじの原木は東北農業研究センターに保存されており、筆者もその立派な大木を見たことがある。日本で育種されたふじも、今や世界中のリンゴ産地で栽培され、珍しい品種ではなくなっている。「日本のリンゴは品質が高いから北京や上海のスーパーなどで高い値段で売られている」などと自慢げに話す日本人は多い。でも、北京や上海の場末の市場でも、日本とあまり品質の変わらないふじが安価で売られていることを、日本のリンゴ関係者はどれだけ認識しているのだろうか。今のところ、中国の顧客たちの自国に対する不信感の裏返しとして、日本からの輸入リンゴが珍重されているだけなのだ。それは値段が高いからこそありがたがる、中国人の見栄っ張りの心理に助けられているのかもしれない。

柑橘類やリンゴだけではない。コメ、イチゴ、サクランボ、ブドウなど、日本のオリジナル品種は世界中で作られている。和牛では精子だけでなく、「松坂牛」などという名称まで中国で商標登録されている。それを日本の農業関係者は「外国人に盗まれた」などと被害者顔で、海外の生産者を非難したりぼやいたりする。でもそれは、わが国の農業関係者が、世界でも類稀な恵まれた国内市場の中で、精神の鎖国に陥っていた結果に過ぎないのではないだろうか。ぬくぬくとした環境に甘んじ、ただ海外からの圧力に怯えて国境に壁を立てる政治頼みの農業だったからではないのか。縮小していくマーケットを盗られまいと守るだけで、海外に我われを必要としてくれる大きなマーケットがあることを見過ごしてきたのである。

筆者は10年近く前に、西豪州のマンジマップにある同州農業試験場で、ピンクレディーの原木を見せてもらったことがある。まだ若木といっても良いほどの小さな木であった。農場を案内してくれた西豪州農務省の担当官は、ピンクレディーが欧州を中心に大きなマーケットを持ちつつあると自慢げに話していたのを思い出す。

ニュージーランドのゼスプリ、そして西豪州のピンクレディーは、日本を含めた世界に向けてマーケットを求めていったのだ。彼らは、それぞれの国で品種登録や商標登録をし、ブランドを確立していく努力を続けてきた。その間、日本は何をしていたのだろうか。

日本ピンクレディー協会代表理事の中村隆宣氏は、(有)安曇野ファミリー農産の社長であり、長野県を代表するリンゴ生産者である。中村氏は2003年のルーマニア旅行を契機に同国内に会社を設立し、06年から現地でふじの生産を開始している。日本農業の鎖国はこうした個人のチャレンジによって解かれていくのだ。

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