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新・農業経営者ルポ

耕作放棄地で挑む大規模コマツナ産地づくり

東京のベッドタウン・埼玉県上尾市。取りたてて有名な特産品のないこの地で、農業生産法人を設立し、コマツナの生産を行なうのが(株)ナガホリの社長・永堀吉彦だ。目標は上尾市を中心とした地域をコマツナ産地として市場に認めさせること。農業に携わって47年、その実現のため、永堀は“耕作放棄地”に目を付け、パワーショベルのような力強さで、型にはまらない農業経営を続けてきた。そして今日も地主の協力や200人を超えるスタッフとともに、妥協なき精神でまい進する。 取材・文/永峰英太郎 撮影/編集部

耕作放棄地にはあらゆる夢が詰まっている

 永堀吉彦が埼玉県川島町にある耕作放棄地に筆者を案内し、その土地に足を踏み入れた瞬間、明らかにその眼は輝き始めた。

 耕作放棄地の広さは実に8.6ha。東京ドーム約2個分の広さだ。その日は、バーチカルハローやレベラーを使って整地作業が行なわれていたが、永堀は突然100m先で作業をするスタッフのもとに駆け出していき、指示を出し始める。

 「圃場の起伏が少し激しかったので、声をかけたんですよ。この時点から土づくりをしっかり行なえば、いい作物ができますからね」

 その動きは止まらない。「うちの市(埼玉県上尾市)の耕作放棄地にも案内しますよ」と車を走らせる。道中、永堀は幾度となく「あの畑もうちが開墾したもの」と指をさす。現在再生中の耕作放棄地は、草がぼうぼうに茂っていた表土を、重機で根こそぎ剥ぎ取った状態だった。作業するスタッフに「あと2日で整地できそうだね」と声を掛ける。スタッフが「綺麗にしてくれてと地主さんが喜んでいましたよ」と返す。永堀は「じゃあ、あっちの竹やぶも提供してくれないかなぁ」と笑った。

 「耕作放棄地にいると、ウキウキしているように見えますね」

 筆者が正直な感想を口にすると、永堀とスタッフは豪快に笑った。そしてスタッフがこう言った。

 「社長は、コマツナを作っているよりも、耕作放棄地を開墾しているほうが好きなんですよ(笑)」

 永堀は耕作放棄地を“宝の山”と表現する。農地に再生することで、より多くの収益が上げられることが、その喩えにつながっているわけだが、それがすべてではない。

川島町の耕作放棄地を案内してもらったとき、永堀は全体が見渡せる高台に立ち、筆者にこう話した。
 「僕は、この地域を市場が認めるコマツナの一大産地にしたい。今うちには、20代の若手社員が7人います。彼らにはこの広大な土地を自ら運営できるような経営者になってほしいんですよ。そして一緒に夢を実現していきたいんです」

 現在でも、永堀は時間が許す限り、自らパワーショベルに乗り、耕作放棄地を開墾している。レバーを操っているとき、その脳裏には、収益が上がる嬉しさだけではなく、若手社員が将来的に活躍する姿も思い描いているに違いない。だからこそ永堀は耕作放棄地の存在を重要視し、その拡大にまい進しているのだ。

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