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特集

日本の土壌除染対策は史上最低“チェルノブイリ以下”だ! 被曝放置農地の現実を直視せよ

原発事故から3カ月がたつ。広範囲の農地を汚染した放射性物質は放置されたままだ。拡散範囲は東北、関東にとどまらず、静岡県、東海全域にまで広がっている。チェルノブイリでは事故後1カ月かそこらで農場毎の汚染マップが作られ、除染作業が始まった。あの悪名高きソ連政府主導でだ。対する日本政府は沈として黙するばかり。特集Part1では、「なぜそうなのか」真実を明かす。国家が無為無策ならば、我々農業界はどうすべきなのか。史上最悪のチェルノブイリ事故から25年、汚染農地で営農を続けてきた旧ソ連の農業経営者に学ぶしか手立てがない(Part2)。と記した5月下旬、民間の被災農家組織と農水省が除染に立ちあがった。始まったばかりの活動を追った(Part3)。

Prologue 「放射性物質の農地沈着は合法」(環境省)を許してはならない

 本特集をはじめるにあたって、深刻な事実を報告せねばならない。

 日本の法律では、放射性物質の環境放出は合法である。皆さんの農地にいくら高濃度の放射能“汚染”物質が沈着しても、あなたは被害者ではない。放射性物質は汚染物質ですらない。法律上、まったくクリーン物質なのだ。どれだけクリーン物質をまき散らしても合法行為だから加害者はいない。

 いや、野菜などの出荷制限等の被害に対し、農協が東電に対して損害賠償を請求を行っているではないか。合法なら損賠賠償できるはずがないではないか。そう訝る人が多勢であろう。

 みな勘違いしている。現在行われている賠償請求は、農産物や農地が汚染されたことに対する損害に対してではない。原子力特別措置法第二十条による指示(出荷停止・制限・自粛)によって被った営業的損失について、農家または農業団体が自ら挙証責任を負いながら、損害を請求しているだけである。

 なぜ放射性物質の漏出は合法なのか。

 通常、汚染物質の漏出とは即ち、環境汚染である。環境汚染とは大気汚染であり、海洋汚染であり、土壌汚染であり、水質汚染である。日本にはこうした汚染を取り締まる法律がそれぞれある。「大気汚染防止法」、「海洋汚染等防止法」、「土壌汚染対策法」、「水質汚濁防止法」である。そのどれを読んでも、放射性物質は適用除外になっている。土壌汚染対策法であれば、「『特定有害物質』とは、鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるもの」と明記してある。他の法律もまったく同様に、有害物質から放射性物質がものの見事に除外されているのだ。そもそも環境法令の根幹である「環境基本法」おいて除外になっている。そこには原子力基本法に「別途定める」と特記されているが、同法ならびに関係法令をひも解いてみても、放射性物質の環境汚染については何ら記されていない。虚偽記載である。

「原発事故で日本の農地が放射能汚染されている。なぜ取り締まらないのか」と環境省に尋ねると、「違法性はないものと認識しております。1000年の一度の想定外の震災ですから」。真赤な嘘だ。放射性物質放出を想定しているからこそ、昭和30年代の法律制定時、適用除外にできたのが真相である。農水省に聞くと「環境省の規制値があれば農地の対策はできますが、なければ動けません」。経産省は「原発事故対策本部に問い合わせください」と逃げる。東電は「法律にある通りの認識でおります」。これで大量の汚染水の海洋放出も何の躊躇なくできたわけがわかる。
 後述するように、チェルノブイリ原発事故後、1か月も経たないうちに汚染マップを策定開始し、2カ月後には除染作業を実施しはじめた。対する日本が何もしないのは汚染物質ではないからである。マスコミでは頻繁に放射能汚染との言葉が躍るが、各省の発表文書を注意深くよんでも汚染の文字は一切ない。農水省による除染への取り組みは「ふるさとへの帰還への取り組み」と命名され、あくまで今回、超法規的に定められた避難等の区域内での対応はとどまっている。

 農家にとって深刻なのは、汚染された農地をどうやって除染し、回復するかだ。誰がその費用を持つのか。自前でやったとしても、汚染地域としてのレッテルは消えるものではない。何十年とかけて作り上げてき土は農家の人生そのものである。営業損害どころではない。農業最大の資源であり、農家のすべてといっていいものが汚された。福島県の有機栽培農家は3月29日、汚染された我が土壌に絶望し自決した。

 同じ境遇の取材に応じてくれた農業経営者は、力を振り絞った。国に放射能汚染農地の被災者認定を求めた。「罹災原因は東日本大震災とは書けるが原発事故とは書けない」と言われた。地震の被害も津波の被害もない、放射性物質を彼の田んぼに明らかにまき散らかされたのに、である。「人の家にゴミを投げ込んだら、まず謝る。そして片付ける。この国は人の道にもとってしまった」と憤りを通り越した心境だ。

 合法行為に対して、どうやって被害を訴えられるか。これは“悪魔の証明”より困難かもしれない。悪魔の証明とは「ないものをない」と証明する難しさを表しているが、本件では、明らかに“あるもの”が権力によって“ないことになっている”国家倒錯的な特殊ケースだ。

 最後は国・東電の“不法行為”を立証するしかない。違法性はなくとも、「故意・過失によって他人の権利・利益などを侵害した者は、この侵害行為(不法行為)によって生じた損害を賠償する責任を負う」と民法709条に規定がある。 やっかいなのは、この過失責任主義だ。原告が被告の故意・過失を立証しなければならない。被告たる国・東電は原告となる農家に対し、事故当日から一歩リードしている。さんざん繰り返された「想定外」である。この言葉についてさんざん論評されたがその本質をついたものはなかった。唯一の目的は行政の「過失責任」を逃れるためだ。

 国の体をなしていない。即刻、国会はこんな適用除外をなくし、国の賠償責任を明確にする事後立法をすべきである。

 犯人を決して逃してはならない。


(本誌副編集長・浅川芳裕)

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