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新・農業経営者ルポ

“山梨らしさ”と経営者感覚が育んできた銘柄牛


 日本の畜産業界が大きな試練の中にあることは間違いない。穀物価格の上昇によって飼料代が上がり、販売価格が追いつかない状態が小林牧場でも続いている。ブドウかすそのものは穀物相場とは関係ないので、ほかの牛からするとワインビーフの生産コストは低めである。それでも、「現在の経営環境の中で牛肉を売るのは厳しい」と、小林は眉を寄せる。

 関税が原則ゼロになるTPPの問題も避けては通れない。もし日本が参加するとなると、どうなるか。甲州ワインビーフは、国内に300以上あるとされる銘柄牛の中でも一般家庭の食卓に並ぶことを意識しているというが、その地位が脅かされる可能性は否定できない。そればかりか、国内の他産地でもワインビーフの名称をつけた牛肉が出てきてもいる。肥育法そのもので特許はとれないので、競合も激しくなるかもしれない。

 だが、どんなに環境は変わろうとも、日本の消費者が牛肉を食べなくなることはないと小林は思っている。支持されるものが、結局は残っていく。ただそれだけだ。そのためには時代の変化を見据えて、消費者とのコミュニケーションの中で、求められる牛肉を作っていくことに尽きると考えている。

 再来年、小林は63歳になる。小林は、この年齢に一線を退いて息子に経営を委ねようと考えている。時代の変化や要求を的確に見抜いたユニークな経営のバトンは、1年半後、3代目へと手渡される。(本文中敬称略)

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