ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

新・農業経営者ルポ

でかい農業から、人と人とをつなぐ楽しい農業へ


 大規模な集約化をめざす一方で、鈴木は有機農業界のリーダー的存在である中島紀一教授を招いた勉強会の世話役を務め、「農家は自信をもって売れる農産物を作らなくてはならない」というその主張に強い感銘を受けていた。94年には前年の凶作の影響で特別栽培米がブームを呼んだ。安全でおいしいコメを自分で売る。鈴木は付加価値をつけるために減農薬のコメの生産・販売を始めた。そのような安全な農作物を自分で売ることへのこだわりが販売部門のこうざき自然塾として結実した。


補助金依存の手抜き農業より手のかかる楽しい農業を

 鈴木がグリーンサービスをやめて、こうざき自然塾として独立するきっかけは寺田本家社長の「ホンモノの農産物を作る」ことの勧めにあったと先に述べた。だが、もう一つ会社の内部分裂も影響していた。グリーンサービスは水田転作の小麦と大豆からスタートした。面積をやればやるほど補助金の額も大きくなった。しかし、鈴木は補助金がなくても大丈夫な経営を目指そうとしていた。大豆の加工やヤマトイモや枝豆の栽培などを行ない、自分で売る道を開拓したのもそのためだった。しかし、共同経営者の中には鈴木のこうしたやり方を受け入れられない者もいた。それならば袂を分かって、別々にやろうと鈴木は考えた。

 「補助金がいけないというわけではありません。ただ、もらうといろんな締め付けがあってかえってたいへんになる。もらっていなければ好きなようにできます(笑)」

 補助金が入ることによって、栽培がおろそかになるケースもある。大豆の場合、補助金が出荷代金より大きいため、手をかけて栽培しても適当にやっていても入ってくる額にあまり違いがない。しかし、だからといって手を抜いた農業は楽しくない、と鈴木はいう。

 鈴木が栽培している大豆は千葉の小糸在来という品種だ。均一性が高く、歩留まりのいい一般的な大豆にくらべて栽培には手がかかるが、香りや味が格段にいい。しかし、小糸在来は奨励品種ではなかったこともあって今年まで交付金対象ではなかった。だから売り先がなければ栽培は難しい。鈴木は、この大豆を加工して豆腐や味噌、豆菓子などをつくり、その売り先を確保した。「月のとうふ」という直売店では、鈴木が作った在来品種を用いた手作り豆腐が毎日作られ、売られている。その味は、これまでに食べたことのある、どの豆腐にもまして濃厚で、コクがあり、いちど食べたら忘れられない味わいだった。

関連記事

powered by weblio