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新・農業経営者ルポ

でかい農業から、人と人とをつなぐ楽しい農業へ


 「これが楽しい農業です」と鈴木は笑った。


目先の儲けより後につながるものを作っていく

 鈴木が農業をするにあたって考えていることは、「自然との調和」「微生物とのかかわり」そして「人とのつながり」であるという。

 「仕事は楽しくないとつづきません。では、農業をしていて楽しかったり、うれしかったりするのはどんなときか。それは、できた農産物をおいしいといってもらえたときや、都会の人が農業を楽しんでいるのを見たときや、大勢の人と交流できたときなんです。人と人との縁や輪ができることが楽しい、ということなんです。そうやって、人と人とがつながると、そこで物が動いて、お金も動く。大切なのは、まず人とのつながりなんです。農産物流通はこれまで農協が担っていたのだけど満足のいくものではなかった。それを自分たちのコミュニティ活動としてやろうというわけです」

 そこで、こうざき自然塾では田植え教室や収穫祭、味噌造り教室、かかしづくりなど子どもたちを巻き込んだイベントをしたり、毎年春、代々木公園で行なわれる「アースデイ東京」に出店したりしている。地元の学校との連携にあたっては寺田本家の協力もある。まだ町民の積極的参加が少なく、地域のコミュニティ活動としては、今一歩盛り上がりに欠ける点があるが、鈴木は「とにかく活動を続けて、実績をつくって認めてもらうしかない」と考えている。

 3年前、ゼロに戻って始めた農業だが、学生時代の先輩に稲を作ってくれと頼まれ、その作業を見ていた別の人が、自分のところもやってほしいといわれて管理する土地が徐々に増えていった。グリーンサービスに貸していた土地も昨年12月に戻ってきて、今では30haになった。

 しかし、順調なことばかりではない。福島原発の事故の影響で宅配契約をしていた顧客からは次々とキャンセルが出て、注文も減った。また、圃場整備事業によって作られた農地は震災で軒並み液状化現象が起こり、激しく陥没した。揚排水装置も故障し、転作を余儀なくされた圃場も少なくない。整地には補助金が出るとはいえ全額ではない。鈴木はレーザーレベラーを用いて、でこぼこになった圃場を自力で補修した。

 また、TPPの問題もある。

 「農協にしか出荷していない農家はたいへんだろうね。政府任せではなくて、自分で動かないとね」

 こうざき自然塾は今後、地元の伝統産業である発酵にかかわるものを追求していきたいと考えている。

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