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農閑期の収入対策
いわき市を訪れたとき、和田君が真っ先に連れて行ってくれたところがあった。四倉漁港近くの直売所「四倉道の駅」だ。津波被害から4カ月以上も過ぎていたのに小舟や流木で壁や窓ガラスは壊れたままだった。その部分には大漁旗で覆っていて、中は営業中だった。お母さんが毎朝作るおにぎり、ご飯パック、大福、おはぎなどがきれいに並んでいた。
直売所の品揃えをみているだけでも売れ行きは順調と思えた。昨年、米価が下がっても売上が上がったのは加工品の賜物だ。ちょっとした追い風も吹き始めていた。いわき市は福島第一原発の事故処理で関係者の前線基地となっている。そこで働く関係者などがおにぎりやご飯パックを買っていってくれるのだ。コンビニの商品とは違う手作り感が人気を集めていると思った。
「ここが製造部」と冗談まじりに連れて行かれたのが、自宅の一部を改造した台所。大きめの炊飯器が3台も並んでいる。食品衛生基準を満たすように部屋の出入り口にはアルコール消毒液もきちんと置かれていた。農閑期の収入対策として始めたものの、加工売上はいまでは和田ファミリーの収入にささやかな貢献をしてくれている。固定客もついたのでお母さんはフル稼働。あの風貌から豪放磊落な面ばかりと思っていたら、小さなことをこつこつと積み重ねる几帳面な性格でもあるようだ。
「新鮮な野菜目当てできた直売所のお客さんの何人かに、ちょっと甘いもんに手を出してもらえれば御の字。それでも1俵数万以上に化けるから、加工は面白い」
最近はやりの6次産業なんて大仰なものではないという。
「本格的な加工場や店舗経営に手を出す気はありません。スーパーは百姓が100年かかっても敵う相手じゃありませんから。うちの必勝パターンは東北で2毛作。加工品の原料の小豆と小麦を回しています。いまは25haですが、うまく作業配分すれば、もう少し増やすことができます。増えた分は、自家加工で使いきる小豆の作付けに回したいと思います。小豆は補助金がでないから誰も作らない。だから作る。どうやって続けられる商売をみつけてやっていくかが大事だと思うんです。隙間の隙間のまた隙間を考える。隙間の条件は、誰もやっていない、大きく儲からない、でも絶対損をしない、の3つ。小麦の生産はいまのところ所得補償をもらうのが目的です。気をつけているのが、これは業者向け、これは直販用、これは補助金という方針をはっきりさせること。ごっちゃになると何をしているのかわからなくなってしまうから。損しているのか、得しているのかわからなくなってしまうのが最悪でしょう」
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和田正人 ワダマサト
和田農場
代表
1967年福島県いわき市生まれ。高校卒業後、土建、運送、保険、工場、ホテル、飲食など多種多様な職種を遍歴し、39歳に就農。脳梗塞で倒れた父の後を継ぎ、専業農家に。現在、経営面積は25ha(食用米、餅米、小麦、小豆)。小豆と麦はコメとの二毛作。就農してすぐから、直播栽培にも取り組む。母、妻は自家製の原料を使った大福餅、お萩、おにぎりなどの加工を担当。地元5カ所の直売所に出荷。稲作経営者会議に所属。東日本大震災以前、阪神淡路大震災(95年)、宮城県沖地震(78年)を経験。モットーは「日本で誰にも負けないファミリー農業」。
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